11.異世界からの転移者

「魔物の活性化調査の場所はーこの辺り、だよな。肝心の活性化してるらしい魔物の姿が見えないが」


 桐谷は洞窟の広い空間の中で辺りを見渡しながら呟く。手には先日受けたばかりの依頼内容をメモした紙。

 明かりの魔法を使い、桐谷は死角になっている場所を見ながら依頼の魔物の姿を探す。


「いない……ん? これ」


 困った表情をして視線を下に落とすとそこに何かがあった。周囲の警戒を怠らずしゃがんでそれを見ると、そこにあったのは血痕だった。触ると手に血が付き、まだ乾ききっていないことに気づく。


「魔物の血か、人の血か」


 視線を動かすと先に続くように血痕が続いていた。

 ゆっくり立ち上がり桐谷は血痕が続く道を進む。進めば進むほど血痕の量は増えていく。血痕の位置を見て一人じゃないなぁと桐谷は思った。二、三人はいるんだろうな。と思える血痕の位置を見て桐谷は歩みを速める。

 すると遠くのほうから複数の音が聞こえ始める。交戦の音、人の声、魔物の声。進めば血の匂いがして、桐谷はいつでも能力を発動できるようにする。 

 そうして見えてきた先で見えたのは依頼の魔物が一か所に群がっている光景だった。


「来るな!!」

「まだ生きてるか。今死なれたら胸糞悪い」


 群がってる先で焦る男の声が聞こえ、桐谷は能力を使う。


「茨よ、貫け『花の楽園』」

「うわあああ!?」

「きゃあああ!?」


 地面から巨大な茨が魔物を貫く。その向こうから男女の悲鳴が聞こえ、桐谷は出現位置間違えた? 殺った? と焦り、走って無事を確認しにいく。

 

「お前ら邪魔!」


 確認しようとしたが、大勢の魔物で向こう側が見えなかった。能力を解除し死体の先を見る。そこにいたのは三人の男女だった。一人の男は武器を手に、女は血だらけの男の傷を治している様子だった。


「だ、誰!?」

「武器を収めろ。そいつ、まだ生きてるか?」

「え、う、うん! 生きてる、生きてます! 助けてください!!」

「落ち着け、助けるから」


 傷だらけの男に近づき、桐谷は能力を使う。花畑を作り、回復の光が出るようにしてから三人の傷を癒す。傷が治っていくのを見た二人はその場で座り込んで泣き出した。


「おい、どうした?」

「し、死”ぬ”か”と”思”っ”た”ぁ”ぁ”!!!」

「う”ぇ”ぇ”ん”!!!!」

「え、あ、お、落ち着け!! もう大丈夫だから!!」


<>


「――大丈夫か?」

「すみませんでした……」


 二人が落ち着いた頃に桐谷は困ったように声をかける。もう一人の男は二人が泣いている最中に目を覚まし、目の前で起きている光景に驚いていた。

 謝る二人に桐谷は首を振り問いかけた。


「いや、怒ってないから。で、アンタ達はなんでここに?」

「ええと……」

「どうする?」

「言ったほうがよくね?」

「でも……」


 桐谷の問いかけに三人は困ったような表情をして、桐谷を除いてひそひそと会話を始めた。


「話せないなら別に言わなくていいけど、とりあえずここから出るぞ。また魔物が襲ってきたら困る」


 無理に聞かないほうがいいと思い、桐谷は立ち上がりくいっと手を出口の方向に向けた。

 街に戻るまでは同行しよう。桐谷は先程の三人の様子を見てそう思った。

 魔物の単語を聞いた三人は凄い速さで頷き、立ち上がった。そして出口の方向に向かっていると、ひそひそ話していた三人の内の一人が桐谷に話しかけた。


「あの、お兄さん」

「なんだ」

「ええと、お兄さんって……青薔薇さんですよね?」

「――は? なんだって?」


 その言葉に目を見開き桐谷は勢いよく振り返る。


「どういうことだ」

「え、あ、す、すみません!!」

「違う、青薔薇ってどういうことだ。何故その名を知ってる」

「わ、私達をここに連れてきた神様が青薔薇って言ってたんです!!」

「お兄さん、青薔薇さんじゃねえの……? すげぇそっくりなんだけど……」

「は、待て、待て、待て……どういう、どういうことだ……?!」


 三人の言葉に桐谷は額に手を当て混乱した様子で三人の発言を繰り返し脳内で流す。青薔薇、神様、そっくり。

 桐谷の様子に三人は「やっぱり違うじゃん!」「でもこんなそっくりなのに別人ってのはないだろ!!」「どういうことー!?」と口々に騒ぐ。

 彼らに聞かなければいけないことが出来た。桐谷は深呼吸をして三人を見た。


「その話、あとで聞かせてもらう」

「ひぇ、は、はぃ」


 無意識に圧をかけた桐谷に三人は真っ青な顔で頷いた。

 なんで、どういうことだ。何をしている馬鹿か。連れてきたってどういうことだ。三年前のアレもお前何かしたんだろ何してるんだ。桐谷は心の中で片割れに文句を言いまくりながら外を目指した。


 洞窟の外に出て、桐谷は三人のほうに振り返る。


「転移魔法使うぞ」

「あ、はい」


 頷いたのを確認したのち桐谷は転移魔法を使う。


「俺は依頼報酬貰ってくるから、アンタ達はあそこにいろ。すぐに戻る」

「分かりました」


 酒場から見える範囲を指定して桐谷はその場を離れる。

 急いで依頼報酬を受け取り、桐谷は三人のいる場所に向かう。そしてふと、名前を聞いてなかったことを思い出し、問いかけた。


「ああそうだ、アンタ達の名を聞いてなかった。俺はキリ・トラベラー」

紫雲彰しうんあきらです!」

滝林静香たきばやししずかです」

秋葉渡あきばわたる、です」

「彰、静香、渡…………日本名?」


 名前の響きが日本がある世界とよく似ていることに気づき、呟いた言葉に三人は驚いた様子を見せた。


「日本を知ってるんですか!?」

「もしかして、キリさんも転移者ですか!?」

「いや、俺は。って待て、今転移者って言ったか?」

「え、はい」

「あーーそう、いう。とりあえず中入るぞ、目立ってる」


 彼らが異世界人かぁ……と桐谷は気づき、まさか会うなんて。と思いながら周りの視線に嫌気を指しながら宿の中に三人を連れて入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る