10.花の死神

「なあ花の死神って知ってるか?」

「あぁ? んだそれ?」


 騒がしい依頼場兼酒屋の一角で三人の冒険者が酒を飲みながらある者について話していた。


「あぁー花の死神ってアレだろぉ? 花のスキルを使う冒険者だろ」

「花のスキルねぇ、弱そうなスキルだな。んで? 死神ってのは?」

「そいつと組んだ奴はみんな死んじまうんだとよ。んで、死体に花を添えるから花の死神ってな!」

「死んじまうって、なんでだよ?」

「詳しくは知らねえよ。ただ、組んで二週間以内に死ぬんだとよ」

「んだそりゃ、意味わかんねぇ」


 花の死神ついて懇談していると、店に誰かが入ってくる。

 酒場にいた者達が入り口に視線を向けると、先程まで騒がしかった店内は静まり返った。


「おっとぉ、噂をすれば……」

「は? 何が?」

「今話してた奴だよ。あいつが花の死神だ」

「……は? あれが?」


 ひそひそと話す冒険者を無視し、男は依頼所の受付に向かう。そして背負っていた鞄から魔物の一部を机に置いた。


「——依頼の魔物を倒したぞ。報酬をくれ」

「はい。こちらが報酬となります」


 男は報酬を受け取り、店から出ていった。その数秒後、静かだった店内は再び騒がしくなった。


「随分嫌われたもんだなぁ。関わりたくないってか」


 男は、桐谷はそう言って呆れた様子でそこから離れた。


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 襲撃から一年が経ち、桐谷は別の街で冒険者をしていた。生活の為、経験を積む為、復讐する為。様々な理由で桐谷は日々を過ごしていた。

 街から離れた後、情報を得ようと桐谷は本体を見るが、気絶していた理由がなかった。代わりに不自然な空白だけが残されていた。

 その空白を見て主に記憶を消されたか? と桐谷は思った。生みの親に等しい存在だから記憶ぐらい消せるだろうなぁ。そう考え、桐谷は深いため息を吐いた。

 本体には以前誰かの記録、発言もあったが今に至るまでその情報もなく、桐谷は情報収集が出来ないまま生きていた。本を武器にする事も、何かを出す事も出来ない。手詰まりだった。

 

「花の死神か、手向けとして花を添えてるだけなんだがなぁ。それに、他が死ぬのは俺が不死身になってるからそうなるだけで……と言ったところで誰も信じないもんな」


 ぶつくさと独り言を呟きながら桐谷は本日の依頼をこなしていた。共に戦う仲間はいない。最初の頃は何度か仲間を作っていたが、仲間が死んでしまい、桐谷だけが残される為、基本作らない事にしていた。

 不死身になったことに気づいたのは冒険者になって少し経った頃だった。その日は運が悪く、ドラゴンに仲間諸共食い殺された後、桐谷は目を覚ました。


『は、なんで……』


 明らかに食われた感覚を感じていたのに桐谷の体は傷一つないまっさらな状態だった。夢? と理解してない頭でそう思ったが、食われる痛みを、音がリアルすぎてそれはないと思った。


『っ、そうだ、みんなは!?』


 仲間は無事だろうか? そう辺りを見渡すと肉片があちらこちらに散らばっていた。近くには仲間が着ていた服の切れ端などがあり、桐谷はゾッとした。それが、仲間だと分かってしまったから。

 同時に「何故俺は無事なんだ」と桐谷は思った。こんなに悲惨な状態だと言うのに、自分はどこも欠損していない。

 そんな時によぎった襲撃の事。同じように傷がなくなっていた状態を思い出し、桐谷は事実確認をする為に近くにあったナイフで腕を斬りつけた。


『ぃ”っ。――――ぅっわ、そう来たか』


 傷が再生し、傷一つない腕が出来上がった。

 神の力は戻らない、使えない。なのに不死身になっている。思い当たるのは一つ。

 

『はぁぁぁぁぁ…………。花の楽園だけじゃないのかよ、クソ創造主』


 ステータスを開くと、文字化けが一つ見えるようになり、そこにもう一つのスキルが書かれていた。


 「endless story終わりのない物語」——と。


 そうして今に至る。


「茨よ、貫け! 『花の楽園!』」


 桐谷はそう地面に指をくいっと上に曲げると、地面から巨大な茨が生え魔物を貫いた。魔物は断末魔を上げた後動かなくなった。それを確認してから能力を解除した。

 花の楽園を使い続けるようになり、使い方を沢山知るようになった。それが今の茨だった。

 体が触れている場所に花や植物が咲くのを応用し、攻撃に使えるようにした。蔦で相手を拘束、茨で道を塞いだり、攻撃手段として使用。花は回復が出るようにと様々な使い方が出来る事に気づいた。

 花を生み出すだけだと思っていた桐谷は、能力の汎用性の高さに気づいた時「こんなの気づく訳ないだろ!!!!」と叫んだことがあった。

 不死身の体に汎用性の高い花能力。桐谷は誰かの手を借りる必要がなくなっていた。一人でも魔物を復讐として沢山殺せる。誰かの死を見なくて済む。人の死で精神を消耗していた桐谷にとって非常に助かる状態だった。

 ついでに噂も非常に助かっていた。一人の口実ができるから。


「ここ持ち帰るか」


 穴だらけの魔物の無事な部位を切り取り、布に包み鞄にしまう。部位を持ち帰るのは、依頼場で討伐した証拠として必要だった。討伐したと嘘をついて報酬を貰おうとする輩の不正防止として依頼場が決めたルールだからだ。

 転移魔法で街に戻って、いつものように報酬を貰った時、ふと桐谷の耳に気になる話が入ってきた。


「最近来た異世界人、今どうしてるのかしら」

「もう死んでたりして」

「あははっありえそう!」

「…………異世界人? ふぅん……?」


 気になる単語が出て来て桐谷は気になったが、話している相手はもう別の話をしていた為聞くのをやめた。それに、知ったところで会うことはないだろ。と思ったので桐谷は頭の片隅へとその単語を置いた。

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