とある花の思い出

『黒薔薇を処分しました』

「……え?」


 全ては、主の言葉からから始まった。片割れを処分した。そんな、報告から。

 どうして? 彼に何か不具合でもあった? どうして処分したの? 処分ってどういう事?

 ぐるぐる回る思考に、目の前が真っ暗になったような気がした。

 急いで、僕達が生まれた場所に向かった。僕と黒は同じ場所で生まれた。だから場所は分かる。

 向かった先の光景は、黒い薔薇の花びらが集まって人の形を作っている場面だった。顕現した。すぐにそうだと分かった。


「俺は、黒薔薇。これから、よろしく」


 目を開けて顕現時の言葉を、黒は言った。僕は急いで黒に駆け寄って肩を掴んだ。


「っ――黒!!」

「うわっ!? な、なんだよ!?」

「何があったんだ! 君に、何があったんだ!?」

「な、何言ってるのか分からないし、それに、アンタ、誰だよ……」 


 黒は訳が分からない様子で僕に向かってそう、言った。

 どういう事、誰って、何? 


「く、ろ?」


 掠れた声が僕の口から出てきた。

 黒は焦ってる僕を見て、あー? と首を傾げた。


「気配が似てるから、俺の片割れってやつか?」

「な、に言って、冗談きついよ……?」

「はぁ? ……あぁ、アンタ、最初の個体か? 前の俺と関係でもあったのか?」

「ど、いう……」


 最初の個体。前の俺。僕の知らない事を黒は言う。どういう事、何が、何が起きてるの。

 黒は困ったように微笑んで、言った。


「なあ、アンタの名はなんだ? 知らないんだ」

「——ぁ」


 嘘偽りのない片割れの問いかけに、僕は深い絶望に突き落とされた。




 神は死ぬと記憶がリセットしてまた顕現する事をその後に知った。生まれ変わりシステムなんだ、と主に教えられた時そう思った。

 それを知って、僕は主に頼み込んだ。

 

 ――僕に、旅神の始末をさせてくれ、と。

 

 正気じゃない頼み事だ。同士を僕の手で消すんだから。でも、助ける為にはこれしかない。

 主が旅神を始末するのは、使えなくなったから。らしい。基本僕達は治るから使えなくなる事はない。でも主はそう言った。つまり、主の言う使えなくなったは、精神の崩壊だ。

 生まれ変われば記憶はリセットされる。精神も最初に戻る。だから、僕の手で始末する。この選択肢が最善だと思った。

 却下されたら、僕はどうしようもない。

 『創造主の命令を最優先』。この選択肢自ら同士を始末するしか、選べなかった。それ以外は却下される可能性があった。最悪、僕自身が始末される。

 でも、それだけは駄目だった。僕は、みんなを、みんなを覚えておかなければいけない。


 だって、僕は一番最初の個体青薔薇なんだから。


「青、薔薇ぁ、どうして!!?」

「さぁ、どうしてだろうね。……さようなら。次は壊れないでね」


 願いを受理された後は何度も、何度も同士を壊した。

 常に余裕でいようと、いつも笑み浮かべるようにした。そしたら道具ではなく、人形のようだと言われ始めた。


「ハハッ、何を言ってるんだい。僕は道具だよ?」


 そう言われる度にこう言った。僕自身にも言い聞かせるようにも言った。

 使われる道具でいないといけない。操られる人形にはなりたくない。僕は、僕は道具だ!!!!!

 

 何度も同士を壊すのは思った以上に辛かった。

 いつからか、僕は心の中で願った。


『奇跡が起きればいいのに』


 青薔薇は奇跡の花。今までも奇跡は起きた事がある。だから、願った。

 ――今の状況が変わる幸せな結末ハッピーエンドを、と。


 僕は奇跡の花なんだ、奇跡の花の名を持ってるんだ。奇跡ぐらい起きる、起きてくれ。


 僕の願いは、最悪な方向で叶ってしまった。

 裏切者が出た。しかも最悪な事に、裏切者を束ねる大将が僕の片割れだと言うじゃないか。

 

『裏切者を始末』

「——分かった」


 最悪な命令だ。これじゃ制限で自由に行動出来ない。始末するしか行動できないじゃないか。




 目の前に片割れが迫ってくる。始末しなきゃいけないのに、体が動かない。傷が再生しない。左目が元に戻らない。

 

「青にも祝福をあげような!」 

「く、ろ…………」


 パンッーーーー。




 これは報いなのかもしれない。同士を何度も殺した僕の。


 手足を切り落とされた。再生しない。

 

「これで青は一人で行動できないなあー♪」

「はは…………」


 そうだね、動けないや。何も、出来ない。

 黒は笑う。でも、いつも見ていた表情じゃない。

 赤かった目は金色に光ってる。同士も同じ金色の目をしている。

 



 起こるべくして起こった僕の結末。

 片割れを、同士を止められず、人形になり果てる。

 どこで、間違えたんだろう。

 こんな、結末望んでない。

 奇跡なんて、起こらないじゃないか…………。






「青っ!! 平行世界って知ってるか!? 箱庭じゃない、こことは違う別の世界があるんだ! 一緒に祝福を与えに行こう!」

「…………ご命令とあらば」


 お人形は所有者に操られ行動する。今の僕に相応しいね。


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next→ 第0.5部「犠牲」 犠牲に選ばれた私達に奇跡を

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