第88話 エドワード
◆ ◆ ◆ エドワード
捕まったのはシャーリーの友人達だった。
俺は多少シャーリーの関与も疑っていた。
記憶を失ってからの俺は流されるままに生きてきた。
シャーリーとの出会いは偶然なのか必然なのか、気がつけば領主代理としてここまで来た。
それなりの地位につけて、好きな仕事に打ち込めて、愛する妻と可愛い息子がいて、何も考えずに幸せに暮らせればいい。
そう思っていたのに、俺がこの街に入れてしまった商会の薬で領民は苦しんだ。
そして……もう一人の息子も苦しみ、さらに妻だった人は犯人にさせられて捕まっていたと聞いた。
ずっと周りを見ないで、気が付かないフリをして、自分の幸せを壊さないようにしてきた。だけど、おかしい、そう思うことが多々あった。
シャーリーの父である伯爵は指示はしてもこの領地に近寄ろうとしない。
最近領地でのお金の動きを調べたら怪しいお金が知らない間にかなり動いていることがわかった。
シャーリーがこの数年遊び歩き買ったドレスや宝石、お茶会などを開くたびにかかる費用も洗い出した。
やはり予算以上のお金を使っているのに、伯爵は何も言わない。あの人は娘を甘やかしてはいるがお金に関してはシビアな面がある。
領地運営に対しても無駄は省くようにキツく言われてきた。シャーリーに使える予算もきちんと言われていたはず。なのにシャーリーは何も考えずに好きなように使っていた。
もちろん多少の予算オーバーは娘なので言わないだろうが、商会が領地に来てからはシャーリーはかなりの金額を使うようになっていた。
「この金額の請求を毎回支払っていたのか」
執事に問いただすと「……はい、旦那様から承諾は得ております」と青い顔をしながらもハッキリと答えた。
俺は仕事の傍ら、シャーリーが商会でどんな物を買ったのか、買い物の金額や買ったものを調べた。
シャーリーがどんな友人達と付き合っているのか。
コスナー伯爵の動きもこっそり調べ上げた。
大金を払って調査をする専門の者を雇った。
もう身内は信用できない。きちんと第三者に金を払って調べてもらうのが確実だ。
シャーリーと幸せに暮らしているフリをしながら調べた結果は……
俺は、伯爵にいいように扱われていた。
薄々気がついてはいた。
あまりにも膨大な仕事量。毎日が仕事に忙殺されていた。いくら仕事が楽しくても毎日大変だった。
シャーリーとの結婚は仕組まれていたのだ。
俺は以前騎士として頑張っていたらしいが、記憶がない今の俺ならわかる。俺はどちらかというと文官向きだったのだろう。
記憶を失った俺は実家の家族に会いに行ったが、伯爵は俺をシャーリーの婿として引き入れるために実家の母親に手を回していた。借金のあった母は俺を知らないと突き放すことで金銭をもらっていたらしい。
屋敷の使用人もあらかじめ辞めさせて新しい人を雇っていたらしい。
だから俺が訪ねても誰も俺の顔を知らなかった。
俺が違和感すら感じなかったのは嘘をついたのが実の母だけだったからだ、使用人は俺を知らないのだから……
そして行き場のない俺は伯爵家の護衛としてまた働き出して、彼女の明るさに惹かれシャーリーと結ばれた。
そこにはお互い愛はあった。俺は今もシャーリーを愛している。ただその時、もしも、俺には嫁がいることがわかっていれば、シャーリーを愛することはなかったし、今この領地にいることはなかっただろう。
シャーリーは我儘だし、寂しがり屋だ。
俺が仕事が忙しくて構ってやれないと外出が増える。子供のことも母親としての自覚がなくて遊び回っていた。
それでも少しずつ本人も成長してきた。
ただ……今回の商会の薬の事件は、俺たち夫婦も伯爵もこのままでは終わらないだろう。
調べていてわかったが、伯爵指導の元、この商会の薬は売られていた。低位貴族の子息達だけであんなに簡単に売り捌けるはずがない。親達だってこの伯爵家の領地で不正をしていて誤魔化すことが出来たのは伯爵の力が裏にあったからだ。
どうして俺は何も知らなかったのか?
それは俺にだけ情報を与えられていなかったからだ。
もしかしたら、辺境伯騎士団が動かなければ、商会のしたことは全て俺の責任にして伯爵は切るつもりだったのかもしれない。
俺は報告書を読みながらある程度の仮説とはいえ流れを理解した。
結論は簡単だった。
伯爵は俺を前面に出して動かさせて、陰で甘い汁を吸う最低な奴だということ。
伯爵は警備隊に対して圧力をかけて元妻のラフェさんに対して、何かと理由をつけてずっと監禁状態にしていたこともわかった。
それをグレン殿が助け出したそうだ。
息子のアルバードも死にかけていたのを今はグレン殿のおかげでなんとか命は助かったらしい。
伯爵はどうしてラフェさんに圧力をかけたのか?
俺にはわからなかった。
ジミーは未だに何も話さないでいるため、そのまま王都へ連行されたと聞いている。
アルバードとラフェさんの件は伯爵が裏で何か絡んでいる。
俺は「仕事で辺境伯と話し合いに行ってくる」と執事に伝えてアレックス・ヴァレンシュタイン様のところへ向かった。
前もってお会いして話を聞きたいと伝えている。
王都まで行くだけの時間は俺にはまだ取れない。ならば仕事も兼ねて辺境地へ向かう方が早い。
単馬なら一日中には着く。
逸る気持ちを抑えながらも必死で馬を走らせた。
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