第82話
◇ ◆ ◇ アーバン
急いで王都に戻った俺はラフェの家へ向かったがやはりそこには誰もいなかった。
「まだ釈放されてはいないのか」
騎士隊の建物へと向かい自分が騎士団所属だと説明したが会わせてもらえない。
「ラフェが我が子を殺すわけがない、父親が仕事中亡くなって必死でお腹の子供を守り産んで育てているんだ」
警備隊の友人に直談判した。
そいつは警備隊の第一部隊の副隊長をしている、それなりに力はあるはずだ。
しかし、俺の話を聞くと困った顔をした。
「アーバン、俺では力になれない。今回の事件は俺たち低位貴族の力では何も出来ない。
ある程度力のある貴族が関わってる、だからお前の義姉だったラフェさんは捕まっても一切事情聴取もないし、建物の奥の収容部屋に入れられてそのままにされているんだ。
外に出すのは簡単には出来ないだろう」
「その貴族とは誰なんだ?まさか……コスナー伯爵?」
「それはあの例の薬が売られている場所の領主だろう?」
「違うのか?」
「悪いが答えられない。俺もまだ家族がいる、悪いが自分の身は守りたいからな」
「首を縦か横に振ってくれるだけでいい」
答えは…………
◆ ◇ ◆ グレン
アルが元気になってきて笑顔を取り戻し始めた頃、コスナー領で動いてくれている騎士団の副隊長から報告がきた。
俺もアルの事件を王都で調べて、向こうの事件と照らし合わせている。
薬は同じだが、向こうはサリナル商会が主犯だとわかっている。
だがこっちはジミーというコスナー伯爵のところの執事見習いが行なった犯行だが未だに口を割ろうとしないらしい。
ただ、向こうの事件は………
コスナー伯爵の娘のシャーリー夫人の男の友人達の軽い遊びから始まったことがわかった。
元々麻薬としてではなく疲れた時に元気になれる強壮剤として売られていた薬。
それを男達は多量に飲めば麻薬として使え、“楽しくなる”ことを知った。
少量なら薬としても使われていたが、それをたくさん一気に飲めば麻薬になってしまう怖い薬。
それをたまたま店主と仲良くなったシャーリーの友人であるワイルズがいつでも買えればいいなと思い、コスナー領の領主の娘であるシャーリーをうまいこと騙して出店させたらしい。
シャーリーにはいい化粧品や薬を扱う商会だと言っていたらしい。だからシャーリーも商品を気に入って快諾した。
もちろん実際取り扱っている商品は皆安心して使えるものばかりだった。
この麻薬をコスナー領で売り始めるまでは。
ワイルズは店主に儲け話があると勧めた。店主は最初は驚き断ったらしい。
店主は確かに大量に飲めば体に負担がかかり中毒になることはわかっていた。だからこそ慎重に売っていた。
身元がきちんとした人からの紹介ではないと売らないし、量も適正量しか売っていなかった。
それが麻薬として売り出したのは、実家の大商会と言われるところへ、少しでも追いつき追い越したいと思っていたからだった。
兄と意見が合わず独立したがやはり比べられればまだまだ力不足で売り上げは足元にも及ばない。
焦っていたところに転がり込んできたおいしい話、何度か良心もあり断った。……が、少しだけならと……甘い心が誘惑に負けてしまい売り始めた店主。
初めはもちろん口が堅い人を選んで売っていた。
はずが……気がつけば売り上げがかなり上がってくればあと少しあと少しと、客が増えてきた。そうなればワイルズ達も店主を脅してさらに利益を貪った。
その結果……コスナー領はたくさんの麻薬中毒患者が増えていった。
平民にはお金がかからないように少ない量を飲み続けらように売った。
気がつけば毎日飲まなければ落ち着かない中毒患者になっていった人達が増えることになった。
お金があり、薬を楽しみ、たくさんの量を飲んでいた人は完全な麻薬の中毒患者になっていた。
ワイルズ達は店主が怖くなって止めようとするのを
「今更自分だけ逃げられると思うな、俺たちはバレていないから逃げられるがあんたは表立って売ってるんだ、逃げられるわけがないだろう。だから悪い噂は俺たちの親が陰で揉み消してくれる、安心して薬を売ってくれ」
と言ったらしい。
シャーリー夫人の男の友人達は貴族という地位を使い、金を握らせコスナー領の警備隊を黙認させていたらしい。
店主は亡くなった姉の孫が自分が売った薬で死にかけていたことを知ってさすがにショックを受けていた。
「この薬をまさか3歳の子供に使うなんて」
「考えれば有り得ることでしょう?」
副隊長は冷たく店主を見下ろした。
「わたしは……いい薬を作り人々に広めていたつもりが……いつの間にか人を苦しめる薬を作り、自身が金に目が眩んで溺れてしまったんですね」
店主は今捕まってはいるが、患者達に解毒するための薬を薬師達と共に作る作業に追われているらしい。
そして……シャーリーの男友達は今次々に捕まっている。
突然大金が入り羽振りが良くなった男達は、さらに遊びまくっていたため簡単に足がついたらしい。
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