第66話
◇ ◇ ◇ ラフェ
アレックス様のタウンハウスに馬車が着いた。
まともに歩くことが出来ないわたしは結局グレン様に抱っこされてアルバードの所まで行くことになった。
「グレン様……ありがとうございます」
たくさんの使用人や騎士に見守られ屋敷に入るわたしはやはり恥ずかしくて俯いてしまった。
だけどアルバードの世話をしてくれた顔見知りの使用人さんが
「よかったですね」
「アル様に早く会ってください」
と声をかけられて「皆さんありがとうございました」と何度もお礼を言い続けた。
「アルはここに居る」
扉の前に下ろしてくれた。
震える手で扉を開けると、ベッドに眠るアルバードの姿が見えた。
「アル?」
震える声でアルバードを呼んだ。
近くに寄るとまだ青白い顔をしたアルバードがキツそうに眠っていた。
わたしは一人で眠るアルバードの頭を撫でていた。
カタッ。
その音の振り返るとグレン様が部屋に入ってきた。
「…………………特効薬の薬は飲ませた。少しずつ解毒は出来ているそうだ。……………ただ子供には致死量になる薬を飲ませられていたらしい。俺は………嘘つきだ。絶対助かるなんて言ったが………………「言わないでください、助かります。アルバードは助かります」
グレン様の目を見て強く、しっかりと言い切った。
アルバードは助かる。
だってこの子の手はまだ温かい。息だってしているもの。
ただちょっと顔色が悪くて息が苦しそうで……かなり悪そうに見えるだけ……
死んではいない。諦めたら死んでしまうかもしれない。絶対助かる。
「ラフェ、とりあえず一度食事をして風呂に入って寝ろ。その間アルの看病はメイド長がしてくれる。アルの隣にベッドを用意するから、頼む、そんな体調でアルの看病を続けたらお前が倒れてしまう。アルが心配してますます悪くなってしまうだろう?」
本当は首を横に振りたかった。アルのそばにいたい………と。
だけどアルバードの看病が長期になるのなら少しだけでも体力をつけないと、自分は強くなる、そう決めていたんだから……泣かない。
アルバードの姿を見て辛くて泣きそうだけど、離れたくないけど、今は自分の感情だけで我儘は言えない。
メイドに促されて、わたしは部屋を出てテーブルに用意された食事を少しだけ食べた。
その後お風呂に入り清潔なシンプルなワンピースに着替えた。
アルバードの部屋に戻るとアルバードの横にベッドが用意されていた。
わたしはアルバードのキツそうな寝息を聞きながら少しだけ眠りについた。
やっとアルバードに会えた安心感とこの先どうなるかわからない恐怖と……
そして、目が覚めた時………………
…………アルバードは動かなかった。
体中の力が抜けた。
『おかあしゃん』
いつもわたしの後ろをついてくるアルバードの声が聞こえない。
温かったはずのアルバードの体が少しだけ冷たくなっていた。
「アル?うそ?いやっ、やだ、やだ、やだ、助かるって言ったじゃない!なんでなんでアルが死なないといけないの?やっと会えたのに……」
泣き叫んで暴れた。
誰か嘘だと言って…………
わたしは…………
そのまま意識を失ってしまった。
◆ ◇ ◆ グレン
「何があった?」
ラフェの叫び声が離れた俺がいる部屋まで聞こえてきた。
ラフェを休ませるため部屋から離れていた。
急いで部屋へ行くとラフェがアルのそばで気を失っていた。
アルは微かに息はしていたが何度声をかけても反応しない。
俺はすぐに常駐させている医者を呼んだ。
「昏睡状態になっています。すぐに処置をします」
俺は何も出来ずにいた。ラフェはアルが死んだと思ってショックで倒れた。
だからラフェの体を揺らした。
「ラフェ、しっかりしろ、アルは生きてる!頑張って生きようとしているんだ」
アルは医者に任せて俺はラフェに必死で話しかけた。
「………ア……ル……」
ラフェの悲痛な声が聞こえた。
ーー目を離さなければよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます