第38話 アーバン
◇ ◆ ◇ アーバン
母上の借金を返す為屋敷は手放すことになった。
そして調べてもらうと兄貴は亡くなったままになっていた。
「エドワード殿が生きているかもしれない?」
騎士団の事務方をしている友人はわからないと言っていた。
資料を見ても亡くなっていて今も遺族給付金は払われているそうだ。
しかも全額我が家に……
一銭もラフェのところへは行っていない。
流石にこのことには驚いた。
確かに死亡保証金は母上が取り上げたのは知っている。だけど毎月の給付金まで……
それなのに借金を繰り返している。
俺は友人に「給付金は止めて欲しい。とりあえずどうなっているのか調べたい」と頼み、しばらく仕事の休みをもらった。
父上は母上を修道院へ入れると言い出したが、俺は止めた。
「母上には現実を受け止めてもらい、罪があるのならば償ってもらわないといけません。俺たちも今まで目の前の問題を軽視してこんなことになるまで放っておいたことも罪だと思います。ともにこの問題に向き合いましょう。それまでは母上は自由に出来ないように伯父上の屋敷の地下室にいてもらいましょう」
「……そうだな。…また目を離せば何をするかわからない。屋敷は手放してこれからは借家住まいだ。妻を閉じ込められる部屋はないし、兄上に頼るしかないな」
父上はこうして泣き喚く母上を引き摺るように連れて行き、地下室で過ごしてもらうことにした。
母上は屋敷を手放す時、こっそりと隠し持って出たものがあった。
それに気がついて、母上が狭い賃貸の家のベッドで眠っている時に、こっそりと探し出してあけてみた。
そこにあったのは高価な宝石達。
ダイヤや真珠、ルビーなどなど俺ですら見たらわかる宝石をいくつも隠していた。
俺と父上はそれを見て、大きなため息を吐いた。
その時背後から寝ていたはずの母上が起きてきた。
「これは全て私のものなの!触らないで!」
奪い必死で腕の中に隠した。
「これはわたしのものなの!」
「母上はどうしてこんなに借金をしたのかと思ったら、高価な宝石を買っていたんですね?」
「貴族の嗜みだわ。豪華なドレスや宝石は必需品なの、それくらいは持っていないと社交界では生きていけないわ」
「母上、我が家はたかが騎士爵を賜っているだけです。領地を持っているわけでもないしたくさんの収入があるわけでもありません。他の騎士よりも収入が多いだけです。それは全て父上が努力して得たものです。母上が好きに使っていいものではありません」
「どうして?ずっとうまく行っていたの。あの商会がお金を持って逃げなければ我が家はそれなりに生活できていたわ」
「現実を見ましょう。俺たちの罪を償わなければ。この宝石は全て売って騎士団から詐取したことになるお金の返金に使いましょう」
「い、いやよ!わたしの宝石なの!こんな狭い家に暮らすだけでも嫌だし恥ずかしいのに!宝石はわたしのものよ!」
母上から宝石を取り上げて、しばらく軟禁することになった。
貧しく過ごしてきた生活が、自由にお金を使えるようになって、母上は少しずつ歪んで行ったようだ。
まだ兄貴のことは、どこにいるのかもわかっていない。
しかし騎士団に報告をしているので、少しでも情報はあがってくるだろう。
俺は伯爵家の執事という言葉から、友人達を頼り情報を集める為に動き始めた。
そして、重い足取りで久しぶりにラフェのところへ顔を出すことにした。
「おかあしゃん、みてみて、ねこ!」
3歳くらいの男の子が元気に家の前ではしゃぎながら遊ぶ姿があった。
ーーアルバード……
兄貴に似た茶色い髪とコバルト色の瞳。
産まれたばかりの頃よりもさらに兄に似ていた。
明るく元気に育っているようだ。
「アル、猫に手を出してはダメよ?驚いて引っ掻くかもしれないわ」
「えー?ねこちゃん、そんなことしないもん」
「ほら!猫がフーッて言ってるわ」
「うわっ、ほんと、ふーって!」
「驚かせてはダメよ?怖がって可哀想だから」
「うんっ!」
アルバードは好奇心旺盛な子供のようだ。
瞳をキラキラさせて猫の姿を追っている。
ラフェも元気に過ごしているように見えた。
俺は二人の姿を遠くからそっとみていた。
この二人の空間に、俺は兄が生きているかもしれないと話に行っていいのか。躊躇い、そこから動くことができなかった。
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