第31話 グレン
◆ ◇ ◆ グレン
屋敷を出てフラフラしながらも必死で歩く後ろ姿を俺とアレックス様は声もかけずに後ろからついて行った。
その間にアレックス様に彼女の素性を聞いた。
たまたま助けたラフェはアレックス様の友人の妹だった。
友人に何度か年の離れた妹のことは聞いていたらしい。そして彼女に興味を持ったアレックス様はラフェにある程度の事情を聞き出していた。
さすがこの国を守る辺境伯様、ちょっと乱暴な物言いを態としながら人懐っこい話し方で人の懐に入り込み、懐柔してしまう。
ラフェのように一人で必死で生きようとする女を優しく騙そうとしている。
俺が呆れながらアレックス様を見る。
「おい、グレン、お前は俺が妻以外に興味を持っていると思ってるだろう?俺は妻一筋だからな。ただ友人だったラフェの兄がどうしてこんな困窮している妹を助けないのか気になるだけだ。あいつは平民になったとは言え金を稼ぐだけの頭も力もあるからな」
後ろからラフェを見ていると足取りが重たそうだ。前に進むのがやっとだ。
辻馬車に乗る気配もないし、立ち止まろうともしない。
根性だけはしっかりしている。
しかし、医者は「熱が上がると思います、殴られたお腹は中の方にかなりダメージがあるので歩くのも辛いはずです」といっていた。
「あーーー、意地っ張りのラフェ!」
「ほんと見ていられない。そろそろ座り込むかと思ったらまだ歩けるのか。」
後ろから俺たちはラフェに話しかけた。
思わず振り返る真っ青な顔をしたラフェ。
「えっ?」
「えっ?じゃないだろう。そんな体調悪そうにしているのを放っておけるなら最初から助けない」
アレックス様が呆れた顔をしてラフェに言った。
「ほんとこの子意地っ張りだよな、あんな意地悪言っても泣きもせず怒りもせず黙って俺から立ち去るんだもん」
俺はやっぱりつい強い口調になってしまった。
「グレン、ラフェに酷いこと言ったのか?」
「だってイラつくから」
「イラつくって、本人の前でそんなこと言ってどうする?」
固まって俺たち二人を見ているラフェ。
それに気がついたアレックス様が説明し出した。
「グレンは俺の乳兄弟なんだ」
「そう、だから主人だけど幼馴染だし、友達だし兄弟のような関係」
「同性だと幼馴染もそんな関係でいられるんですね」
羨ましそうに言うラフェ、彼女には異性の幼馴染がいるのだろう、ふとそう思った。
「じゃあ、意地っ張りのラフェ、馬車で送るから」
俺はそう言うとラフェを抱きかかえた。
「きゃっ」ラフェが少し抵抗したが立っているのもやっとだったのだろう。
意地を張らずに黙って抱っこされていた。
軽い体。細い腕。青白い顔色。
無理をしてるのがわかる。
少し先に停まっている馬車に連れて行った。
「本当はすぐに馬車に乗せようとアレックス様が言ったんだけど、倒れるまでは気がすむように歩かせた方がラフェにはいいかなと思って」
「……ありがとうございます、本当はもう歩くのも限界でした。どこかで一休みしようと考えていました」
「……うん、かなり体が熱い。熱が上がってる。よくここまで歩いたな、もう少し早く声をかけるべきだった。ごめんね」
「違います。わたしが意地っ張りなんです…………甘え方が…わからないんです」
「うん、あのあとアレックス様に事情を聞いた、知らないくせにきついこと言って反省してる、ごめんよ」
さっきまで意地を張っていたラフェがぐったりしている。その姿は死んでいくときに見たマキナをまた思い出させた。
そうだ、このか細く弱った姿がマキナに似ているんだ。
顔がそっくりなわけではない。なんとなく似ているだけ、どちらかと言うと雰囲気が似ているのだ。
いつか壊れて居なくなりそうなところが。
まだ知り合ったばかりのラフェ、妻に似ているからなのか、気になって仕方がない。
付き合いの長いアレックス様はそんな俺の様子に気がついているようだ。
「グレン、ラフェに同情するだけならあまり構うなよ相手も期待するからな。お前は、容姿だけは優れてるから女が勝手に惚れてしまうからな。
俺はラフェの兄の友人として構うつもりだから。幼い頃ラフェには会ったことがあるんだ。ニコニコ笑う可愛い小さな女の子だった。あの笑顔がすっごい印象的でついかまい倒したくなって遊んでやったことがあるんだ。
なのにあんな疲れ切った顔をして……可哀想に」
アレックス様は誰にでも優しい人ではない。なのにラフェのことが気になるらしい。俺とは別の意味で。
ラフェを送り届けた。
ラフェの息子は隣の家に預けているらしく俺が隣に顔を出した。
そこには小さな男の子がいた。
隣のおばちゃんは俺を見て警戒したが、貴族の服装をしている俺に少し気を緩めた。
そしてラフェの事情を話すと
「ラフェが?」と驚いて一緒に隣の家に来た。
俺を見て人見知りもせず興味津々で俺たちを見つめる瞳。
『アルバード』それがラフェの息子の名前。
俺は小さな男の子を抱っこしてラフェのところに連れて行った。
マキナがもし助かっていたら、俺の息子もアルくらいになっていただろう。
マキナは3年前、出産に耐えられず母子共に亡くなってしまった。
ーー体が弱く妊娠中どんどん弱っていき早産だった。
俺は未だに後悔し続けている。どうして産ませようとしたのか。
妊娠したと知った時、諦めればよかった。
ーーマキナがどんなに産みたいと言っても。
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