第24話  義母

 ◆ ◇ ◆ 義母


「エドワードが行方不明?」


 とても優秀な息子だった。


 優しくて頭が良くて剣術も父親以上に優れていた。





 夫は伯爵家次男。


 わたしとの結婚と同時に平民になったが、思ったよりも早く夫の剣の実力と伯爵家の多少の力で騎士爵を承ることが出来た。


 騎士団の第二部隊隊長をする夫。


 それなりの給金は貰い、派手な生活はできないけど裕福には暮らすことができた。


 伯爵家を出る時に財産としてそれなりのお金も貰い屋敷も建ててもらった。


 わたしは男爵家の娘だったが貧しい低位貴族だったので平民として暮らしていたと言ってもよかった。


 だけど伯爵家の次男だった夫が騎士爵を貰い、貴族として社交を出来る地位につけた。


 さらに社交するだけの金銭的な余力が我が家にはあった。伯爵家からもらったお金を投資したおかげで夫の給金だけではなく投資から得られるお金も入るので、暮らしはかなり裕福だった。


 おかげで憧れの貴族としての生活をすることが出来た。

 エドワードもアーバンも優秀な子達だった。


 夫の実家の伯爵家の両親が、こんなに優秀な子達なら教育を受けさせないと勿体無いと金銭の援助をしてくれて二人にはしっかりと家庭教師をつけて勉強をさせることができた。


 ラフェの家は元々伯爵家だった。

 夫の伯爵家とラフェの伯爵家は仲が良かったらしく夫同士が友人だった。


 わたしもラフェの母と仲良くなり、エドワードがラフェをとても可愛がっていた事から婚約させることになった。


 もちろんわたしには打算があったのも確かだった。


 だけど夫婦が事故で亡くなり長男は平民の妻と結婚したことや借金があったこともあり、あっさりと爵位を返して平民になってしまった。


 あんなに明るかったラフェが大人しくなり笑わなくなったことにわたしは心を痛めた。


 その頃のわたしにはまだ金銭的にも余裕がありラフェに対しても娘のように思えていた時期だった。


 屋敷に呼び母のような気持ちでラフェに接して過ごした。


 エドワードとの結婚もそのまま受け入れることができた。


 ラフェは幼くて知らない事だが、ラフェの母親は他国の大商会の娘で、実はかなりのお金持ちなのだ。結婚を反対されて家出同然でこの国に来ていたので、多分娘が死んだことは知らないのだろうと思う。知っていても放っているのかもしれないけど。


 だけどいざとなればラフェは、母親の実家に頼ればかなりのお金を融通してもらえるはず。

 わたしは貧しい生活の中育ったため、打算で人と接することに慣れすぎていた。


 そんな中エドワードが行方不明になり、さらに不幸は続いた。


 社交をしている中で親しくなった婦人に勧められてドバイス商会に投資をした。その時は信じられないくらいの増益で毎月入ってくるお金が倍に増えた。だから信じて分散していた投資をやめて全てのお金をドバイス商会に投資した。


 まさか持ち逃げされるとは思わなかった。


 エドワードが居なくなり入ってくるお金が減る中、借金だけが増えていく。

 周りの騙された人たちは爵位を返上する人や夜逃げする人、借金に苦しみ自殺する人もいた。


 そんな中一縷の望みは夫の伯爵家に頼ることだった。


 なのに

「お前達は何度もお金の無心に来た。前回言っただろう。もう次はないと」

 そう言って貸してもらうことはできなかった。投資をする時にお金に目が眩んで義実家に借金をして投資額を増やしていたのだ。その返済すら出来ないでいた。


 そんな時エドワードの死亡届を出せば死亡保証金と毎月の遺族給付金を貰えることがわかった。


 だからどうしてもそのお金が欲しかった。

 可愛い孫や可愛がったラフェよりも。


 屋敷を出て行ってもらい、エドワードのお金は我が家のものにした。


 その時ラフェ達の戸籍はまだ我が家のままにしておいた。

 そうしないとエドワードのお金をわたしが受け取ることはできないから。


 死亡保証金はかなりの額をもらえた。


 だけど遺族給付金は僅かだった。


 エドワードはまだ騎士爵を受ける前だった。想像した額より少なくアーバンにも生活費を入れてもらう額を増やしてもらった。


「母上いい加減に社交は控えてください」


「お前は我が家には金がないのにそんな贅沢をしてどうするんだ」


 男二人は文句しか言わない。


 わたしがどれだけ頑張って社交をしてきたと思っているの!


 アーバンだって今こうやって騎士として働きやすいのはわたしのおかげなのに!








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