第14話

 ◇ ◆ ◇ アーバン


「嘘だろう?」


 噂の真相を聞き出すために母上に問いただした。


 母上は泣きながら「今の現状」を話し出した。


 我が家には一銭もお金がないこと。

 このままではこの屋敷も離れも売るしかないこと。

 それを阻止するためには兄貴の死亡保証金で補うしかないこと。


 父上と俺の生活費だけではこの生活は維持できないこと。

「だって貴族のお付き合いにはお金が掛かるの。ドレスもいるしお付き合いのための手土産、プレゼントやお茶会の催し、この屋敷だって維持するにはお金がいるの。使用人だって雇っているわ」


「そんなのやめて仕舞えばいいじゃないですか!」


「何を言っているの?わたしが貴族としてみんなと付き合いをしているからエドワードは早くに副隊長になれたのよ。それにアーバンだって騎士になって一年ちょっとなのに優秀な部隊に入れたのもわたしがたくさんの夫人達と親しくしているからよ」


「……そんなっ」


「たかが騎士になって二年も満たない貴方がこうしてそれなりの地位を約束されているのもわたしのおかげなの。

 もちろんラフェのこともアルバードのことも可愛いと思っているし家を出たことは寂しいわ。だけど私たちの生活が成り立たないのに他人を思いやることは出来ないわ」


「アルバードは亡くなった兄貴の息子ですよ?」


「わからないじゃない、だってエドワードが死んでから妊娠がわかったのよ?誰の子かなんて」

 なんてことを言うんだ!


「どう見ても兄貴の子供でしょう!」


「違うわ、絶対なんて言えないわ」


「なんて事を!ラフェを探して来ます」


「ラフェは元々この家を去るつもりだったの。この家はアーバン貴方が継ぐことになるから二人がいる場所はもうなかったの」


「あんなにラフェのことを気にかけて可愛がっていたじゃないですか!」


「可愛いわよ。今だって……だけど現実を見ないと生きていけないわ。これからは夫とエドワードの遺族給付金しか頼るものがないの。アーバンももう少し生活費を入れる金額を増やしてちょうだい」


「だったら、その貴族としての生活を減らしては如何ですか?ドバイス商会に騙されて廃爵した人達もたくさん出ていますし、ちょうどいいでしょう?」


「あんな人達と同じ轍を踏まないわ、だからここで踏ん張って持ち直せばまた今までと同じ暮らしができるの。そうすれば少しはアルバードにだって何かしてあげられるわ」


 母上の言い分は自分勝手すぎる。

 だけど俺はそんな母上のおかげで何の苦労もせず生きて来たのだ。


 どんなに俺が正論を言ったところで同じ穴の狢だ。自分だって今の地位を捨てることもこの屋敷を追い出されて平民になって貧しい生活をすることも出来ない。母上を汚いと罵ることは出来なかった。


 今俺に出来ることはとにかく今の地位にしがみついて惨めでも剣の実力をしっかりあげること。親の力で地位につくのではなく自分の力で這い上がるしかない。


 そしてしっかり金が稼げるようになったらラフェに返していこう。




 ◇ ◇ ◇ ラフェ


 洋服屋さんに仕上げた服を納品した。


「お疲れ様、綺麗な仕上がりだったわ」


 エリサが仕上がりをチェックして、

「はいこれ、少しだけど多めに入れておいたから」と縫い賃を渡してくれた。


「いつもありがとう」


「何言ってるの。アルが大きくなったらもう少し仕事量も増やせるんだろうけど、もう少しの辛抱ね」


「うん、最近は一人遊びも上手になったのよ。一人でよくわからない歌を作って楽しそうに歌ったりして、見ていて楽しいの」


「ねえ、アルが熱出して働けなかったからって食事食べてないなんて言わないわよね?また痩せた気がするんだけど」


「大丈夫だよ、アルバードにはしっかり食べさせているわ。わたしも今日は歩くと思ってしっかり食べてきたもの。今から市場に行って買い物をするつもりよ。それよりも仕事はある?」


「ラフェのために取ってあるわ。今回は騎士団からの依頼で毎月15着ずつ、納品して欲しいと注文が来ているの。だからラフェに半分は回したいの。

 本当はアルが居るから大変だからどうしようと思っていたんだけど、ラフェの仕事は丁寧で綺麗で評判がいいから回したいの。お願い出来ないかな?」


「もちろん頑張るわ」

 この前休んだ分を挽回したい。


「じゃあ後で生地や糸は届けておくようにするから!」


「ありがとう、じゃあ、わたし買い物に行って急いで帰りたいから!またね」



 お店を出て急いで市場へ向かった。


 前から少し柄の悪そうな人がニヤニヤしながら歩いて来た。


 歩をゆるめ、道から逸れて馬車の通る方を歩いた。


「なんだ、姉ちゃん、俺たちが怖いのか?」


 やっぱり絡んできた。


「やめてください」

 腕を掴まれ顔を近づけて来た。


 道ゆく人は見て見ぬ振りをしていた。


 関わりたくないのだろう。


「ふーんそんな嫌がられたらもっとしたくなるもんだ」

 そう言ってわたしの体を触って来た。


 気持ち悪くてゾッとして震えが止まらない。


「何怖がってるんだ。そこの宿について来てもらおう」

 そう言うと男三人がわたしを囲むようにして宿の方へと連れて行こうとした。


「や、やめて!」























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