第4話
◇ ◇ ◇ ラフェ
最近はお腹が大きくなり過ぎて歩くのもキツイ。
離れで暮らしてはいるけどエドワードの葬儀も終わりこれからのことを考えないといけない。
お義母様には
「子供が産まれて落ち着いたら出ていくつもりです」と伝えてある。
エドワードの死亡給付金がもうすぐ支払われることになっている。それに加え毎月の生活費が騎士団から振り込まれるので内職をしながら子供を育てることはできると思う。
身重の今引っ越すのは流石にキツイので頭を下げて居させてもらえるようにお願いをした。
でもこの屋敷全てにエドワードとの思い出が残っている。
ずっと婚約者として過ごしていたので、幼い頃から遊びに来ていた。
両親が亡くなり結婚したばかりの兄の家に引き取られ、少しだけ……肩身の狭い生活をしていた。
意地悪をされたことはない……だけど欲しいものがあっても必要なものがあっても自分からお願いするのは気が引けた。
最低限の生活は出来ていたのでそれでいいと思っていた。そんなわたしにいつも気を遣って服を買ってくれたり学校で必要なモノを用意してくれたお義母様。
「うちには女の子がいないからラフェのモノを買ってあげられるのは楽しみなのよ」
いつもそう言ってアーバンから学校で必要なモノを聞いては用意をしてくれるお義母様にいつも感謝していた。
エドワードも騎士団に入隊して忙しそうにしていたが、時間を作りわたしとの時間を過ごしてくれた優しい人だった。
4歳も離れているのにわたしを大切にしてくれたエドワード。
お互い兄妹のような関係の中で過ごしてきた。
いつかはエドワードに好きな人が出来て婚約は解消されるだろうと思っていた。
だって元々モテていた彼は、騎士になってからさらに人気が出て、学園で過ごす生徒達の間でもエドワードは有名だった。
なのにエドワードは学園を卒業すると同時にわたしを妻にしたいと言ってくれた。
わたしはエドワードのプロポーズを受け入れてお互い幼馴染の兄妹のような関係から少しずつお互い意識し合う恋人になっていった。
二人で劇や美術館へ行ったりしてデートを重ねた。沢山会話をして手を繋いで歩いて、笑い合い、これから先の生活を夢見て話をした。
エドワードは隊長になるのが夢だった。そしていずれは近衛騎士として王宮内で働きたいと言っていた。
わたしは温かい家庭を築きたかった。
両親が早くに亡くなった分、自分の子供達には沢山の愛情を与えて楽しく賑やかな暮らしを夢見ていた。
沢山の人に祝福され結婚して、家を建てて幸せな生活を始めたばかりだった。
まさかエドワードが亡くなるなんて……
だけどお腹の子供はどんどん大きくなっていく。これから先の不安と愛する我が子が生まれる喜びでわたしの心はいっぱいいっぱいだった。
毎日子供の服を作ったりオムツを縫ったりと出産の準備をしながら静かに離れで過ごした。
義両親が毎日食事を持って会いにきてくれた。
アーバンも仕事が終わると顔を出して「体調は?」「まだ産まれそうもないね?」と声をかけてから自宅へと帰っていった。
ベルさんとの仲は今どうなっているのか聞いていない。ただいつも早い時間に顔を出すので二人の関係を少し心配しているのだけど、わたしが関わることではないので黙っているしかない。
エドワードが行方不明と言われ、わたしが不安定なとき、アーバンはわたしのそばに居てくれた。
「ベルさんが嫌な思いをするといけないからわたしのことは放っておいていいの」
「ラフェには関係ないだろ」
アーバンはベルさんのことをわたしが気にするのを嫌がった。わたしもアーバンを突き離せばいいのに、エドワードのこと、お腹の赤ちゃんのこと、これからのことを考えると不安になって、アーバンの優しさに甘えていた。
別にアーバンと何かあったわけではない。でもアーバンが顔を出してくれることに慣れていく、そしてそれが当たり前になっていくことが怖くなった。
まるでエドワードがもう本当にいなくなってしまったように思えてきて……葬儀もしたのに。
わたしにはまだエドワードとの思い出が沢山あり過ぎて、そしてアーバンも含め三人で過ごした思い出もあり過ぎて、アーバンにこれ以上依存したくなかった。
だからアーバンに言った。
「わたし子供が産まれたらここを出るつもり。子供と二人で家を借りて暮らすわ。
だからアーバンもベルさんと幸せになって欲しいの。わたしを心配してくれるのは嬉しいけど、幼馴染で家族だからと言ってこれ以上甘えるわけにはいかないわ」
「ラフェ、家族だろう?兄貴が居なくなったからって出ていかなくてもいいだろう?」
「そんなわけにはいかないわ。アーバンだっていずれは結婚するのよ?その時にわたしがここに居ればお嫁さんだっていい気持ちはしないわ。アーバンがいずれこの屋敷の跡取りになるの、わたしは邪魔でしかないの」
◇ ◆ ◇ アーバン
「アーバンどうして?ラフェさんのことは確かに心配なのわかるわ。だけどだからと言ってしばらく会えないなんておかしいわよ」
ベルがしばらく会えないと言ったら泣き崩れた。
「すまない、だが今は兄貴の情報を集めたりしているし、母上達が憔悴しているんでそばに居てあげたい。それにラフェは今妊娠して大事な時なんだ。もし流産でもしたら……」
俺はラフェのことが心配で堪らないのに違うことを言い訳にした。
ラフェを忘れるために付き合い出したベル。
ベルは「それでもいい、ラフェさんの代わりでもいいから」そう言った。
俺がラフェを好きなことを彼女は知っていた。
二人は同じ職場にいた。
ラフェは卒業してからエドワードと結婚するまでの半年ほど雑貨屋で働いていた。
俺は気になって何かと理由をつけてラフェの店に行っていた。ラフェは幼馴染だからと思っていて俺の気持ちに気づいてもいなかったが、ベルは俺の気持ちに気がついていた。
「アーバンのラフェさんを見る目がとても優しかったもの」
付き合い出してからそう言われた。
「ベル、俺はすぐにラフェを忘れられない。そんなずるい男と付き合ってもいいのか?」
「貴方がわたしを好きになるまで待つわ」
そしてベルは俺が働く騎士団へと職場を移した。
ベルは俺と付き合い出した。
俺はラフェを忘れようとベルとデートを重ねやっと少しラフェへの気持ちを忘れられそうだった。
なのに……今はラフェが心配で仕方がない。
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