ぼく、むーげ。

七草かなえ

第1話 むーげとお菓子

 昔かもしれないし未来かもしれない、どこかの世界のどこかの街。一匹の小さな子羊がいました。


 子羊はカスタードクリームみたいな薄黄色うすきいろの丸っこい体に、くるんとまるまったココアブラウンの角の持ち主です。ごま粒みたいに小さくて丸い目をしています。


 子羊の名前は『むーげ』といいました。


 むーげには悩みがありました。


 どうしても食べたいお菓子があるのです。とっても甘くてとっても美味しい、『え』より美味しさを追及したというお菓子なのです。


 そのお菓子を買うためには、ちょっとだけ遠くの街に行かなくてはなりません。なんでもすっごいパティスリーとのこと。何がすごいのかはわかりません。


 でもむーげは、生まれてから今まで一匹でお出かけしたことがありませんでした。

 朝はゆっくり眠り、昼はゆっくり眠り、夜はゆっくり眠る。そんな生活ばかりを場所を変えながら続けてきました。


 でもご飯とテレビ、お風呂とお手洗いの時は起きています。むーげはインターネット全盛期の時代に関わらずテレビっ子でした。好きなアニメは女の子と女の子がとっても仲良くなるジャンルのものです。

 そしてむーげはテレビCMで、そのお菓子を見つけたのです。


「どうすれば家から出ないであのお菓子が食べられるむげ?」


 お母さんは「お菓子の会社の株主になるといいノーネ」


 お父さんは「CMに出てる女優さんと友達になればいいんだぱ」


 むーげの脳内彼女(一億年に一匹の美羊)は「そんなことよりあのバッグ買ってえ」


 なんかみんな絶対間違っていることしか言いませんでした。こんなのでも世の中意外となんとか生きていけるものです。


 夢の中でむーげは考えます。考えて考えて考えて、考え抜きました。

 そして、やっとひとつの答えを出せたのです。


「ネット通販を使おうむげ!」


 支払いはお父さんにお願いしてクレカ決済にしました。


 こうしてむーげは、美味しいお菓子を食べることができたのでした。

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