第2話
この騒ぎを起こしたクラリス・モヤシルヴァ王女が癇癪持ちの男好きで、令嬢達からも令息達からも好かれていないことを考えると、事情を何も知らない人から見ると不思議で不思議で仕方ない。
もっとも、力加減が苦手なメリッサと握手をしようものなら手が砕け、気に入られてしまってハグをされようものなら……ゴリラ令嬢と言われる原因となった馬鹿力で窒息に追い込まれてしまう。
そして厄介なのが、彼女は家族のスキンシップが多かったことに影響されて、少しでも心を許すと簡単に手を握ってくるのだから、避けられて当然だった。
何人もの手が砕かれたことで『メリッサ=ゴリラ令嬢、決して近づくな。近付けば手が砕かれる』という事実が広まり、ゴリラ令嬢という蔑称で呼ばれるようになっている。
マッスルダイア公爵領では、ゴリラは力持ちを指す誉め言葉だから、言われている本人にとっては誉め言葉だからメリッサにダメージは全く無い。けれども、周囲の人々はそのことに気付かない。
「今日はお暇した方が宜しいと思います」
「そんなこと出来ないわ。あのジェイク様を手に入れるチャンスなのよ!?」
「まさか、その濡れたドレスで告白されるおつもりですか?」
「大丈夫よ。今日のドレスは暗い色だから、濡れていても気付かれないわ」
こんなことを言い残して、騒ぎの場に近付くメリッサ。
そうすると、騒ぎに興味を持って囲っていた貴族達がメリッサが通ろうとしている場所から蜘蛛の子を散らすように離れていく。
皆、我先にと必死の形相だ。
「あら、皆さんお優しいのですね。ありがとうございます」
パニックになっていることなど知らずに配慮と受け取ったメリッサは、輝かしい笑顔を浮かべて小さく頭を下げている。
そんな彼女の笑顔を見てしまったとある令息は、少し顔を赤らめながらこんなことを呟いた。
「やばい……俺、メリッサ様に惚れたかもしれない。可愛すぎるだろ」
「正気になれ! あれはか弱い令嬢の皮を被ったゴリラだぞ!? 抱き締められたら、強すぎる力で圧死する!」
「いや、でもあの笑顔は捨てがたい」
「おい!」
すっかり落ちてしまったらしい友人の姿を見て、一緒に居た令息が拳を降らせる。
「痛ってぇ……。殴ることないだろ!?」
「お前、死にたいのか? 少しずつメリッサ様に近付いていたぞ?」
「マジで? 凄まじい吸引力だな。助かった、ありがとう」
「ようやく目を覚ましたか」
「ああ、お蔭様で痛いけどな。後で治癒魔法をかけてもらうよ」
「ん? 治癒魔法の使い手って、王妃様が王都に居ない今はメリッサ様しか居なかったような……」
「王妃様が戻ってくるまで待つ!」
ゴリラ令嬢は治癒魔法が使える貴重な人。これも社交界では有名なお話だ。
ちなみに、治癒魔法が使える人は合計で五人いるが、王妃とメリッサ以外は幼くて表舞台にはまだ出てきていない。
現状で頼れる人はメリッサしかいない。そんな悲しい現実が令息達を襲った。
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