課題『女の子主観で物語を書く』
01 塔の娘と悪童
私は生真面目な女の子だった。
……ううん。現実を見るなら、今もそう、かも。
いや、そうなんだけどね。
私が今いるのは、魔術師の塔と呼ばれる、魔法使いの中でもエリート中のエリートしか所属することの出来ないエトワイル魔術師団の研究部門である「
私はその埃っぽくて薄暗い塔の中で、紙切れやら本やらが取っ散らかった部屋の中で、今日も一人、机に向かって研究を進めている。
ところで、この「未練の塔」の先代は高名な女性の魔術師様だったらしいけど、生涯を身も心も魔道に捧げたらしいわ。
魔法使いならそう在るべし。なんだってさ。
だけど。
私はイヤ!
絶対に、ぜーったいに!!イヤなの!!
だって私は物語に出てくるようなお姫様になりたくて『転生』したのに!!
一体何だってこんなカビ臭い塔の中で誰が見るとも分からないような研究を延々としなくちゃならないのよーっ!!
あの時、神様は言ったわ。
『貴女の願いを叶えることも出来ますよ』って。
だから、真面目にキャリアを積んでたのに。
いつの間にか、魔術学院に入学することになって。
いつの間にか、主席で卒業して。
いつの間にか、魔術師の塔に押し込められて。
今、こんな状態になってるの。
流石の私でも、ドラゴンにさらわれて勇者様が助けに来る展開を夢見るのはちょっとアレだと思って、現実的に、優秀な成績を治めて良い人を見つけて、順当に結婚して幸せに暮らす将来設計をしてたんだけど。
私の学院生活はずっと図書室に引きこもって勉強で、気が付いたら1年で卒業とか意味不明なことになって、身支度だの引っ越しだのに追われて、気が付いたら塔の前で立ち尽くしてたわ。
古びた塔が新居って言われた時は、本気で自分の耳を疑ったわね。
今思えば、おかしいことだらけだった。
だって、私が机に齧りついてた時、同級生は街に繰り出して遊んでたし。
当時は「ふふん、あんたたちが遊んでる間に私はエリートの道を行くのよ」とか思ってたけど、朝から晩まで勉強してようやく終わるような量がノルマな訳が無いのよ。
それも、前世の記憶がある状態で。
あまりにとんとん拍子に物事が進み過ぎてたから、私も疑問を抱くことが無くて……というか、疑問を抱く暇すら無く、飛び級で卒業、最年少で魔術師の塔へ、なんていう偉業を打ち立ててしまったの。
とても、とても不本意だけど。
そんなわけで、私は今、とても焦ってるの。
研究の締め切りとかは特に無いけど。
研究しなかったら何もやることが無いから、手慰みに研究しながら、将来設計を再設定してるところなの。
だけど、前世には魔術師の塔なんてモノは無かったし。
私の一日は、研究と食事で終わるし。
どうやったらここから出られるのかも分からないし。
死ぬまでここに縛られるのは絶対にイヤだけど。
どうしたら出してくれるのかも、どうやって出て行けばいいかも分からないままで。
そんな時だった。
___彼に会ったのは。
思い返せばベッタベタな展開だったけど。
当時の私は、彼が救いだと、本気で信じていたの。
その日。
ある種、運命の日。
私は気分転換に塔にあるたった一つの窓から外を眺めていたの。
丁度、手慰みの研究も、将来設計も行き詰まってた時にね。
塔に一つしか窓が無いってバッカじゃないのと思ってたけど、ちゃんと理由があって、本が傷むからなんだって。住んでる人間より本の方が大事ってホント馬鹿。
そんな感じで外を眺めてたら、誰かが鎧姿の見張り番とモメてるのが見えて。
こんな声が聞こえたの。
「俺は魔術師になりにきたんだ!たのもーっ!!」
って。
年相応の少年の声で。
まず最初に困惑が来て、だけど、ちょっと羨ましくもなった。
ここまで話を聞いてて分かると思うけど、私って真面目ちゃんなの。
だから、素直に、堂々と思いの丈をぶつけられるってだけで。
でも、だからって、そんなことで魔術師になれるならみんなそうしてるから。
私はどうせ追い返されて終わりだろうって。
最上階に戻って、机に着いた。
だけど。
「いーやーだ!俺はここにいるんだ!」
「誰か聞いてるか!?この声が届くなら答えてくれ!」
「俺はどうしても魔術師になりたい!いや!なるんだ!」
「魔術師になれないならここで死ぬ!うおお!止めるな!」
うるさい。
とても。
集中できたもんじゃない。
そんなこんなで、私はブチギレた。
「うるっさいわね!いい加減にして!!」
そうやって私が青筋を立てて塔から跳び出すと、ピタリとその喧騒は止んだ。
二人がかりで男の子を担ぎ出そうをする大の大人な見張り番2人と、それから、ハッとして私の方を見た後、ムッとした表情で私を睨みつける私と同じぐらいの男の子が、私を見る。
「ミルア様、すみません。この者が__」
「んだよチンチクリン!魔術師を出せ!」
「おま」
かと思えばこの言い草。
私は思わず手が出た。出ちゃったの。
……男の子を止めようとした見張り番もろとも。
私は仮にも、
非殺傷とはいえ、バルーンを大規模展開してしまったの。
バルーンは、一般的に
だけど、私は知っている。
これは、"その場に不可視の風船を膨らませ、術者以外を弾き飛ばす"魔法。
だから、その規模が大きくなるとどうなるか。
___"対象は地面に叩きつけられる"
「うぐっ」
「いっ!?」
「おぶっ」
私の前で、地に伏した3人。
この辺で、私は我に返ったの。
ああ、どうしよう。って。
だけど。
「す、すっげぇ!!お、俺魔術師になりたいんだっ!ちんちく…じゃなかった、えっと、ミルア…だったか?俺を魔術師にしてくれ!」
そう言って私を見る男の子の瞳は。
キラキラと輝いて、それでいて澄み切っている。
毎日鏡を見る度に私を見つめる、くすんで濁り切ったドブみたいな黒目なんか比べ物にならないくらい、希望に満ち溢れた、かつての私が持っていたはずの瞳。
これをくすませてはならない。と直感した。
私と同じにしてはいけない、と。
同情?義務感?ヒーロー的願望?
どれでもない。それは、その感情の名は。
憧憬。そう、憧れだ。
彼と共になら、或いは。
そう思った次の瞬間、私は。
「……彼を弟子見習いとします。案内を」
「やった!!ありがとう!ございます!」
でも、大喜びする彼を見て、私はちょっとだけ後悔する。
ただの私情で弟子見習いとしてしまったことにではなく、彼の人生を勝手に決めてしまったことに。少なくとも、魔術師の塔の見習いは簡単には辞められないだろうから。
それでも、責任を取ることは決めた。
彼の人生と、それから、その輝く瞳の。
「ミ、ミルア様?本気ですか?」
「おい、越権だ。控えろ」
「あっ……、かしこまりました」
同僚に諫められた見張り番の言うことももっともだけど。
私の我儘を聞いてくれた二人に頭を下げると、二人は恐縮したように縮こまって、逃げるように男の子を連れてこの場を去っていく。
……本当はこれが正しい反応なんだけど。
「そんじゃミルア!また後で!!」
……まずは敬語を覚えさせるところからかもしれない。
と、私は思ったより難題かもしれないと頭を抱えた。
***
もし、こうした方が良くなると思う。ということがあれば遠慮なくコメントいただけると有難いです。そのために書いているものなので。
今日から5日間、その体でやりますので、もしよければお付き合い下さい。
※煽りや根拠の無い指示コメント、誹謗中傷にならぬようご注意下さい。
指示したい場合は提案という形でお願いします。
※一部修正しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます