第7話:傘は素敵なことを隠すためにある。

その夜、僕は紗凪にメッセージを送った。


《昼間はごめんね、心にもないこと言っちゃって反省してる 》

《まだ怒ってる?》

《ベランダに出て来てくれないかな?》


しばらく待ったけど既読にすらならない。

紗凪からの返事は来ない。


完全に怒らせたか・・・。

彼女の気持ちが静まって、機嫌がよくなるまで待つしかないのかな?

なんだかこれ以上、言い訳がましく云うと逆効果な気がした。


結局、夜中の2時頃まで待ってみたけど紗凪からはなんの音沙汰もなかった。


翌朝、朝は天気だった、だけど予報では午後から雨だぞって言っていた。

バカのひとつ覚えみたいなことはもうやらない。


で、バス停に行くと先に紗凪が来ていた。


遠慮しがちに紗凪の斜め後ろに立つ僕、

なんだかまだ友達でも恋人でもなかった頃に戻ったみたいだ。


普通なら朝の挨拶をするんだけど・・・

ふたりとも口を聞かないままバスに乗り込んだ。


めちゃ寂しかった・・・もうため息がでる。


僕がこじらせたせいで、まじでこのまま終わっちゃうのかなって本気で思った。

教室でも僕たちは一言もしゃべらなかった。


どうせ一緒に帰ろうって紗凪を誘っても無駄な気がしたので 授業が終わった

時点で僕は一人校舎を出た。


案の定、午後から雨が降った。

まるで今の僕の切ないくてやるせない心を象徴するように・・・。


僕は一度空を見上げた。

そしたら僕の後ろで声がした。


「また?・・・またバス停まで走るつもり?」


え?紗凪?


そう思って振り向いたら、僕の斜め後ろに紗凪が立っていた。


「紗凪・・・」

「怒ってるんじゃなかったの?」

「クチも聞きたくないんじゃないの?」


「ごめん・・・私子供だったね、あんなことで起こちゃって」


そう言って紗凪は僕に腕にしがみついてきた。


「僕こそ・・・気に触ること言っちゃった」

「僕のこと許してくれる?」


「許すも許さないも・・・愛彦は悪くないよ・・・私がわがまま言っただけ」

「ひとりになって考えたら、なんであんなことでムキになっちゃったんだろうって

思って・・・」


「愛彦は私のことを思って、ああ言ってくれたんでしょ・・・私分かってるよ」

「私のこと一番気にかけてくれてるの愛彦だって・・・」

だから、愛彦は悪くない・・・」

「西田くんにはちゃんと断るから・・・ね?」


「嫌いにならないでね」


「嫌いになんかなるわけないだろ」


「けど僕のこの小さな心が傷ついたこと理解してほしいかな?」


「ごめんね、愛彦が私のこと本気で嫌いになっちゃったらどうしようって

朝からずっと心配してたの・・・本当はもっと早く謝ろうと思ったんだけど」


僕らは校舎からゾロゾロ出てくる他の生徒のことなんか気にもしなかったし

目にも入ってなかった。


「お互いに謝って、これでチャラだな」

「もう怒ってないよな?」


「怒ってないよ」

「結局さ、僕たち相思相愛じゃん」

「外は雨だけど、気持ちは一気に晴れたかな」

「さあ、帰ろ紗凪」


「それが・・・私、傘忘れちゃって」


「ワザとか?それとも本気?」


「ワザと・・・」


「怒るぞ・・・」

「じゃ〜ふたりしてバス停まで走るか?」


「ずぶ濡れになっちゃうよ」


「あのさ、僕が愛しい彼女を雨に濡らしたりすると思う?」


そう言って僕はカバンの中から折り畳み傘を出した。


「ほれ」


「あ〜持ってきてたんだ、傘」


「任せなさい・・・バカのひとつ覚えみたいに同じドジは踏まないの 」


「たまたまでしょ」


「たまたまでも偶然でも持って来たんだから結果オーライなの」

「なんかさ、僕たちの出会いも友達も恋もいつも雨が降ってた気がするな」


「そうだね」


「この傘小さいから、もっとそばにくっつかなきゃ濡れちゃうぞ」


そう言って僕は紗凪を引き寄せた。


「ちょ、ちょっとくっつきすぎじゃない?」


「くっつかなきゃできないでしょ?」


「なにが?」


「キス」


「え?・・・キス?・・・キスって・・・」

「でも、誰かに見られちゃうよ」


「大丈夫だよ、見えないよ」

「いい?、傘って雨が降った時だけに使うもんじゃないんだよ」

「 素敵なことを隠すためにもあるんだからね・・・」


おしまい。


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ため息のゆくえ。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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