第6話
『喫茶小さな窓』でバイトを初めて、一年が経った。
私の名前は「香」。珈琲嫌いの高校2年生。
珈琲嫌いなのに、喫茶店でバイトしているのには訳があって、元々は違う喫茶店でのバイトが決まっていたのですけど、面接のときに出してくれた珈琲が、焦げ臭い・苦いと口直しにとよく行く甘味処でケーキを貪るように食べている時にパティシエをしている店長に「本当の珈琲を飲んだことがないんじゃない?」と連れられてこの店の珈琲が珈琲嫌いの私でも美味しいと感じてしまったので、その日のうちにバイトは募集してなかったけど、頼み込んでこの店で働くことになった訳です。
その間に変わった事と言えば・・・
「カランカラン」入り口の扉が開く音が聞こえる。
「よう!」と声を掛けてくるのは、いつも来てくれる常連さん。
おしぼりと、お水を出す。常連さんは腕時計を外し裏返す。これはこの店では時間の事を気にせずに珈琲の香りと味をじっくりと味わう為にしているルーチン。
「いつもの珈琲でよろしいですか?」と私は声を掛ける。
「ああ、それで頼むよ。でも今日はおなかが空いてさ。サンドウィッチもお願いできる?」
「それなら、試作品ですけど新しいサンドウィッチを作ってみたんですよ!感想も聞きたいから、食べてみてくれません?」と常連さんに行ってみた。
「おっ、それは興味あるな。それじゃそのサンドウィッチを頼むよ!」
「畏まりました。」私は外に出ようとすると、「何でサンドウィッチを作るのに、外に出るんだ?」と常連さんは聞いてくる。
私は、「このサンドウィッチの具材は匂いがきついので、珈琲の香りを邪魔したくないんですよね。」と言い残し、外に出る。
「どんなサンドウィッチが出てくるんだ?」常連さんはマスターに聞いている。
「さあ、どうでしょうか?自信があります。って言っていたので、任せることにしたので、私も知らないのですよ。」とマスターが答えた。
このマスター。50代後半位の白髪が少し目立つ紳士という表現がぴったりの人だ。
私のわがままな「この店で働かせて下さい。」のお願いにも快く承諾してくれたのは、このマスターの人柄と珈琲を愛しているからだろう。
私は、珈琲の淹れ方を教わっているのだが、このお店では注文を聞いてから豆を炒る所から始めるので、珈琲がお客さんの手元に届くのは速くて20分は時間がかかる・・・故に時間に余裕がある人でしか立ち寄れないお店ですが、一度この店の珈琲を飲んだら最後、他の店の珈琲が飲めないと少しずつではあるが、リピータが増えていると言った感じ。
しかし、1杯の珈琲が1500円と高いのでリピーターのお客さんでも、月に数度程度しか来れないのも現状・・・。なので今日もお客さんの数は少ないと言った感じ。
「お待たせしました。」と、珈琲が出来上がったのと同時にサンドウィッチも出来上がる。「あれ?普通のミックスサンドじゃないか?」と常連さんは不思議そう・・・。
「まぁ、食べてみてくださいよ。」と私は常連さんに促す。
常連さんは、私が作ったミックスサンドを一口・・・。「あれ?このサンドウィッチは食べた事のない味と言うか、美味いよな?なんでなんだ?」
「それはですね〜、ツナを鯖で作ってるからなんですよ。マヨネーズも自家製ですよ。」と、私は少しだけ自慢げに胸を張る。
「でも、鯖だと魚臭いはずなんだけど、この鯖はくせがないな。どうやってるんだ?」
「まずは、鯖の皮を取って七輪でゆっくりと脂を落とします。焼きあがった鯖をほぐした後に更に脂を搾り取ったんです。そうすることで香ばしさだけが残るんですよ。」
「これは美味しいですね。是非とも、メニューに加えたいですね。」と、マスターも気に入ってくれたようだ。
「でも、晴れの日限定になるんですよね。」
「何でなんだい?」と常連さんが不思議そうに聞いてくる。
「だって、外で鯖を焼かないといけないんですよ。外は屋根がないですから。」
「なるほどな。マスター、厨房を作ってあげたらどうなんだい?」
「この店内に厨房を作ったら、せっかくの珈琲の匂いが鯖に占領されてしまいますのでむりですね。」
「だったら、外に作ってやればいいじゃないか?」
「しかし・・・。設備投資するお金が・・・。」
「それぐらいの金だったら、俺が投資してやるよ!」
「はぁ、そういうことでしたら・・・。」
「と、いう訳だ、香ちゃん。これからは他の料理も頼んだよ!」
「ありがとうございます!」
「ただし。この店をやめないでくれよな。」カカカと常連さんは笑っていた。
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