第6話 決意
あれからいろいろ考えたけれど、わたしの中の答えは出ない。
それでも、わたしの気持ちとやるべきことは決まった。あとはそれを行動で示すだけだ。
剣崎くんには感謝している。あのとき、もし会わなかったら今までずっと迷っていただろう。今から行うことが失敗したとしても、あとできちんとお礼を言おう。
胸に手を当てればかすかに感じる温かさ。安心からくるものだ。昔とは違い、今のわたしは独りではない。弘樹がいる。今まで険悪だった家族とだって、きちんと上手くいっている。
この気持ちを弘樹にきちんと伝えなければ……。
わたしは今、駅ビルの出入り口に立っている。
ちらと時計を見る。待ち合わせの時間にはまだ早い。自分がこれからしようとすることに緊張しちゃったせいで、昨日もよく眠れずに諦めて
はやく来ないかなー………。
なんて考えていたら、1人の男性がこっちに向かって走ってきているのが見える。すごい剣幕だ。急いでいるのか? なんて思ったが違う。手には刃物。明らかにわたしを狙っている。
え!?
突然のことに驚いたわたしは足がすくんで動けなくなってしまった。
迫り来る男、立ち尽くすわたし。その間に突然遮るように割って入る1人の男性。
「剣崎くん!?」
でもなんで、ここに? それよりなぜいつもわたしのためにそこまでするんだろう……。つい最近まで赤の他人だったのに。
そんなことより、このままでは剣崎くんが刺されてしまう。そんなのはダメだ。今までいろいろしてもらった。危ないところを助けてくれた。迷っているわたしに道を指し示してくれた。
だからわたしはここにいる。弘樹に告白するために。わたしの背中を押してくれた、恩人の彼にわたしはまだ何も返せていない。
剣崎くんの手を掴み、無理やり引き離す。入れ替わるように刃物を持った男がわたしを突き飛ばす。
「ウソだ!! そんな…………!!」
剣崎くんがわたしの元へすごい形相(ちょっと怖い)で駆け寄ると、刃物が刺さった腹部まわりを脱いだ上着で覆う。
すごく痛い。お腹が熱い。口を開くが、腹に力が入らず、吐き出す声は霞んで消えてしまう。
「な、…んで…………ここに」
「予感がして、見張っていた。案の定だ。なのに、なぜ俺を庇った!?」
眉間の皺がさらに濃くなる。明らかにわたしに怒っている。それに関して言えば、わたしもかなり怒ってるよ? なんで盾になろうとしたの?
「たま……には、返さない…………と」
ふふと力なく笑う。辛そうな顔を見たくなくて、心配させたくなくて笑ってみせるが、それが逆に不安にさせてしまったようだ。
「そんなことは、どうでもいい! 生きてさえいれば、無事でさえいてくれたら……それで、いい……」
剣崎くんが涙を流す。その顔があのときの弘樹とかぶって見える。
むかしむかし、ある日、独りきりの家が嫌で家出をしたことがある。当てもなくただひたすら歩き、あたりが次第に暗くなってきているのにずっと帰らなかった。
両親が仕事から帰ってきて、わたしがいないことに気がついたらしい。警察に通報したようだ。
あたりはすっかり暗くなって帰り道を見失ってしまい、途方にくれた。両親が必死に探していることを知らなかったわたしは、どうせ自分がいなくなっても誰も気がつかないだろうなーなんて、ここで死ぬのかなーだなんて考えてた。
考えるほどに落ち込んでいく悪循環。いっそ死にたいとまで思ってしまった。
結果的にわたしはこうして生きている。弘樹が見つけてくれたからだ。わたしを見つけた途端の怒ったような泣いたようなあの表情。あのときの顔を未だに忘れない。
そのときはじめて気がついた。わたしには弘樹がずっとそばにいてくれたんだと。
その後、わたしの両親に弘樹が鬼のように怒ってくれたっけ……。
ん?
なんでいま、このことを思い出したんだろう。
ふとそう思ったが、やがて襲いかかる眠気に負けて、意識をそこで手放した。
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