Gift~天使からの贈り物~

名奈瀬優作

第0話 プロローグ

 冷たい


 頬を伝う一筋の滴


 寒い……



 日はもうとっくに暮れていて、あたりは既に真っ暗になってしまっている。


 深闇な寒空の下、わたしは公園のベンチでただひとりポツンと、横たわるように座っている。


 いつからこうしていただろうか。ずっとこうしているせいで、身体は芯まで冷えてしまい、動けなくなってしまう。


 かじかむ手。

 震える唇。

 気力のない身体。


 あたりを見渡しても、その公園にはわたし以外に誰もいない。このままでいれば、どうなってしまうかなんて誰でも容易に想像できるだろう。……そんな当たり前のことですら気が付かないほどに、今のわたしは疲弊しきってしまっていた。というか、もうどうでもいい。


 先ほどまで流していた涙はとうに枯れている。


 手足はもう動かない。

 動こうとする気力すらない。

 生きようとする意志すら、すっかり枯れてしまっている。


 ぽつり


 ……涙はもう枯れている。そのはずなのに、頬に当たるこの感触はなんなのだろう。


 かじかむ手をゆっくりと頬へと伸ばす。濡れた感覚はすでになく、もうすっかり乾いている。その手にポツリと当たるもう一粒の滴。


 雨だろうか。いや違う。


 かろうじて動く目を開け、視線を上へと向ける。


 薄ぼんやりと見えたのは、長らく忘れていたモノ。いや、ずっとそばにいたのに気が付かなかった。私を支えてくれた、大切なその人のあたたかな涙だった。


 その人は、冷え切ってしまったわたしの手を、両手で優しく包みこんでくれる。じんわりと感じる人肌のぬくもり。


 安堵を感じ、枯れたはずの涙をはらりと流し、ゆっくりと目を閉じていき、徐々に意識を手放していった……。



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