星の海に浮かんでいるようなロマンティックな日々は唐突に始まる件

ALC

第1話神は気まぐれ

いつだって人生は不意に動き出す。

意識をしていない時ほど物事は動こうとしてくれる。

自分の人生に絶望していたり過度な期待をしている時ほど何も起きないものだ。

だがしかし、現在の自分に出来ることや未来の自分のために磨きをかけていると不意に変化は生じるのだ。



いつもだったら仕事の飲み会に顔を出すことは無かっただろう。

では何故、本日は飲み会に顔を出したのだろうか。

正直に言えば僕にもわからない。

なんとなく。

直感的に動いただけなのだ。

一次会が終わると二次会へと向けて同僚たちはぞろぞろと移動を始める。

だが僕は二次会に顔を出す気にはなれずに、今度も直感に従って同僚に別れを告げる。

終電ギリギリの時間に駅のホームへたどり着くと本日最後の電車を待っていた。

本日は珍しいことに終電だというのに人の姿があまりない。

珍しい出来事に何度か頷いて周りを見渡していた。

駅までやってきた終電に乗り込むと僕は最寄り駅まで静かに揺られていた。

数十分の乗車時間が過ぎていくと降車する。

自宅までの数分の道のりを少しのほろ酔い気分のまま歩いていた。

近所の公園は沢山の子供が利用する場所で自然とママ友たちのたまり場になっていた。

何が言いたいかといえば、子供が日中に安全に遊べる環境がこの地域には整っているということ。

簡単に言えば治安が良いのだ。

万引きや無賃乗車などの犯罪行為に手を染める学生もいない。

空き巣や泥棒などの存在も皆無と言って差し支えないだろう。

暴力事件や殺傷事件などはもちろん無い。

それぐらい治安の良い街なのだ。

何故、僕が今そんな話をしだしたのかと言えば…。

件の平和的な公園のベンチで夜中にアルコールを浴びるように飲んでいる女性を目にしたからだ。

普段ならありえない光景に僕は目を疑っているのだ。

注意すべきなのか。

いや、誰にも迷惑はかけていない。

現在は夜中で日中に子供の目の前でアルコールを浴びるように飲んでいるわけではないのだ。

何を注意すべきか僕は少しだけ悩んでしまう。

彼女はただ公園でお酒を飲んでいるだけだ。

海外では決まった場所でしかお酒を飲んではいけないらしい。

外を歩きながらとか公園でとか路上で飲酒などは禁止らしい。

それを思い出していたのだが…。

ここは海外ではない。

僕に注意する発言権などは無いのだ。

子供が遊ぶ公園の治安を守るのも地域の人の責任だとは頭では分かっているのだが、僕はそれに目を背けようとしていた。

ただ、いつの日か僕に子供が出来たときのことを考えてみた。

夜中にアルコールを飲むために集まる公園とは如何なものか…。

そう思うと僕は彼女に注意をしに歩き出す。

徐々に近付いていくと目の前にその女性を視界に捉えた。

思った以上に美しい容姿をしている彼女に僕は面食らっていた。

「あの…」

声を掛けると彼女はやっと僕を視界に捉えたようで小首をかしげていた。

「ここは子供がよく遊ぶ公園なので…あまりここでお酒を飲むのはよろしく無いと言うか…気分が良くないと言いますか…とにかくここで飲むぐらいなら家に帰って飲んでくれませんか?」

相手の逆鱗に触れないように上手にコミュニケーションを取ろうと試みる。

「…ないんです…捨てられて…」

女性はか細い声で泣きじゃくるように言葉を口にする。

「もしかして…家がないって話じゃないですよね?」

「本当に無いんです…。彼氏に捨てられたので…」

「えぇっと。じゃあ実家は?帰ったら良いじゃないですか」

「実家も…もう無いんです。行く先がなくて…絶望してお酒に頼ってみたんですが…気持ち悪くて…吐きそうです…」

彼女は軽く吐きそうな仕草を取ると口元を抑えていた。

「あぁ〜。じゃあひとまず家に来ますか?ここにいるとその内に近所の人に通報されると思いますよ。それに僕の家のトイレで吐いたほうが良いんじゃないですか?水も用意します。どうぞいらしてください」

誘うように手を差し出すと彼女は少しだけ不安な目で僕に問いかける。

「身体でお礼しろってことですか…?」

その言葉を耳にして僕は今までの彼女の生い立ちを少しだけ不安に思った。

「そんな台詞口にするのは創作物の中だけですよ…僕はそんな事言いません。地域の子供の安全と困っている女性に手を差し出すだけです。特別にお礼をされたいから助けるわけじゃないですよ」

僕の言葉が信じられないのか彼女はキョトンとした表情を浮かべていた。

「とにかく。家に行きますよ」

僕は彼女の手を引くとすぐ近くの自宅マンションまで急いで向かうのであった。



この日、不思議な正義感から出会った捨てられた美少女、久堂くどうさらとこの物語の主人公である僕こと白樺しらかばうみのラブコメは始まろうとしていたのであった。

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