第54話

「たくさん、わかったことがあるんです」

風が優しく二人を包んだ。

「私は、自分のことが嫌いでした。きれいになんかなれないと信じていました。でもどこかで、そんな自分のことを悲しんでいた」

目を伏せる。

「誰もが元々持っている美しさを、引き出せるかどうかなんですね」

それは信じる勇気だ。人を信じる、自分を信じる。誰が何と言ったとしても自分にできることを信じる。

新しい空気をいっぱいに鼻から吸いこんだ。

「私にも、愛される資格があるんですね」

「もう悲しみの涙ではないわね」

モクレンは今度はハンカチを渡さなかった。

「そのあたたかい涙を覚えておくのよ、それは必ず、これからのあなたを生かしてくれるから」

あたたかくやわらかな風のなかを、ライアンが笑顔で歩いてくる。しかし人影はもう一つあった。なんと、ノノがライアンの後からついてきていたのだ。

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