第35話

最悪だ最悪だ最悪だ。

ばたばたと駆けていく。ここがどこかも知らないまま。涙が次々に溢れてくる。自分でも不可解に思うが、止め方がわからない。

 何度も繰り返し思いだすイメージがある。道を歩けば人々に後ろ指をさされ、依頼主には全身を舐めるように見られた過去のこと。そして、今まで散々目にしてきた、美しい乙女たちの姿。ほっそりとして、小さな顔に大きな目、ぷっくりした赤い唇。彼女たちはみな、自分の人生を華やかに彩る。そして自分どころか、周りの人まで笑顔にさせてしまう。

とてもそんなふうにはなれない。気がつくとラベンダー橋の欄干に手をかけてぼんやりしていた。

川の水面に自分の顔が映る。

「なにが」

声が震える。

「なにが、なにがかわいくなる、よ。なにがきれいになるよ」

映る顔が醜くひしゃげる。愚痴をついてもかわいくない自分の顔に、嫌悪を通り越して笑えてくる。

「自分の顔を見てみなさいよ。よくもそんな顔で、かわいくなりたいだなんて言えたわね」

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