第30話

あと少しで。

 と、その時、リトルブルーは持っていた紙袋を思わず落としてしまった。派手な音をたてて、いくつものメイク用品が地面に転がり落ちる。

二人の視線がこちらの集中するのがわかった。

リトルブルーは真っ青になりながら,腕に抱えていたメイク用品をまたぼたぼたと地面に落とした。ライアンがそれに気づいたので、今度は湯気が出るほど赤くなった。

やっとのことで全てを拾い上げたと思って顔を上がると、ライアンが丸いファンデーションを手に、観察した。

顔が、があっと熱くなる。ライアンの手からそれをひったくって、一目さんに逃げて行った。


リトルブルーが最近なんだか華やいで見えるのは、なぜだろうと思った。

ライアンはふと、ノノを思いだした。リトルブルーの肌に、あんな風に簡単に触れたノノが、どうも意識から離れてくれない。もしやノノのために、ノノと一緒にいる自分自身のためにメイクの練習をしているのだろうか。

「…痛い」

初めての胸の痛みに驚きながら、ライアンは服をきゅっと掴んだ。

小さすぎる声は、誰にも聞こえなかった。

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