最終話 いつまでも…永遠に…

「ずっと待っていたんだね。独りは寂しかったでしょ?」

Dは僕に優しい笑みを向けると頭を軽く撫でてくれる。

「どうだったんだろうね。過去は思い出せないから…」

「そう。それほど深く傷付いていたのね」

「分からないけど…」

僕らのチグハグな会話は少しだけ続くと彼女は僕に事実のようなものを告げてくる。

「Zが私を呼んだのよ。独りは辛いからって」

「そうなのか?」

「そうよ。だから願いを叶えに来たんじゃない」

「そうか…それは助かった」

「良いのよ。これから二人で仲良く暮らしましょ」

「いつまでもいてくれるってことか?」

「当たり前じゃない。ただ最期の時には魂をもらうから」

「魂?まぁ良いけど。僕のでよければあげるよ」

僕の投げやりにも思える言葉に彼女は妖しく美しい笑みを浮かべていた。

「人里には下りないほうが良いわよ」

「分かってる。それは感覚的に理解しているんだ」

「ふぅ〜ん。それはどうして?」

「わからない。でも下りてはいけない気がしているんだ」

「そう。良い判断ね。偉いわ」

彼女は再び僕の頭を撫でると身体を近づけてくる。

そのまま僕らは引き寄せられるようにハグをした。

何処か懐かしいような感触や匂いに僕は落ち着きを取り戻していた。

段々と眠気のようなものが僕を襲うとそのまま深い眠りへと誘われるのであった。



羊の角を携えた異次元の存在と自分のことが何処の誰かも理解出来ない僕の二人きりの日常生活は最期の時まで続くのであった。



自分の記憶を取り戻すわけでもなく何をするわけでもない日常。

二人きりの幸せに包まれた、それだけの日常。

僕は最期の時、彼女に魂を奪われて…。

いつまでも彼女の中で存在し続ける。

いつまでも…。

永遠に…。


                 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

人里から遠く離れた場所に一軒だけある民家に住んでいる僕のもとに訪れたのは…◯◯と言う羊の角を携えた異次元の存在だった… ALC @AliceCarp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ