大きな桃から始まる物語
仲仁へび(旧:離久)
第1話
川の上から、大きな桃が流れてきた。
突然の出来事だった。
まるで有名な昔話みたいな例題だ。
こういう時、諸君ならどうする?
先生がそう言った。
俺は思う。
普通。
そんな場面で、好奇心を発して、桃に手を伸ばしたりするだろうか。
俺は、しない。
だって、突然桃が。
それも普通より大きな桃が流れてくるだなんて怖すぎるだろう。
近くには、桃の木なんてないし。
脈絡がなさすぎる。
だから俺は、その桃に手を伸ばすなんて愚を犯さない。
断固として、無視して、視界に入れないようにして、すみやかに、絶対的に、その場から離れるだろう。
そう。
それが本当に桃であるかどうかも、疑わしいしな。
もしかしたら、桃の中に頭をやっちゃった危険人物が潜んでいるかもしれない。
もしかしたら、頭が逝った奴が、危険な爆発物を隠しているかもしれない。
だから俺は、断じてそんな状況で、川の上の方から流れてきた大きな桃に手を触れたりしないのだ!
国語の授業の中。
有名な昔話を例に出して授業していた。
この状況で、君達はどうする?
みたいな事を先生が聞いたんだったっけ。
そうしたら隣の席の奴が「俺なら」とそんな事をのたまってきた。
まじかよ。
たかが昔話にそんなマジな事いっちゃうわけ?
俺や他のクラスメイト達はドン引きだ。
なんなら、先生だってドン引きだ。
まじかよ。
まじかよ。
人間って想像できない事が起きると、思考が停止するんだな。
こいつネタじゃなくてマジで言ってやがる。
顔も目も大マジだった。
ある意味ためになる国語の授業だったよ。
人って思考止まるんだぁ……。
その話題の中心、肝心の、当人。隣の生徒。
俺の横にいる男子生徒は「川から桃が流れてきた場合」について、クソ真面目に話し終えた後、特に何か言うでもなく。
普通に着席。
他に何か言っとかなくていいのか?
クラスの中の空気アレだぞ。
えっと、オブラートに包むと、かなり独特な空気になっちゃってるぞ。
いいのか?
いいのかよオイ。
いま、四月で、入学式を終えたばっかりで、
ファースト授業の真っ最中だぞ。
しかもお前、転校生で、完全なアウェイだろ。
お前、これからの一年間どころか、これからの全ての学校生活、ぼっちになる危険性があるんだぞ。
そんなわけで、心配になった俺は、要らぬ親切心を発揮してしまった。
「なんでやねーん!」
隣に着席した男子生徒の頭をボカッと。
叩いて。
ツッコミを入れる。
ちょっとヤケクソまじり。
俺の声はちょっと震えまじり。
でも、そんなでも、クラスの空気は和らいだようだ。
ふう、なんとかこれで孤立する事はなくなったかな。
個性出したくてとんがるのはいいけど、もうちょっと後先かんがえようぜ?
なんて思っていたら。
隣の席から「なんだこいつ」みたいな視線。
ムカッときた。
俺はお前の為にやってやったのに。
ちょっと、その態度はないんじゃないですかねーえ?
ははん?
あれか、俺は進んで孤高の狼やってる的なムーブ?
そういうの最初はいいけど、後からだんだんきつくなってくるよ?
後悔しちゃうよ?
先生から「はい、二人組つくってねー」って言われた時とか、「修学旅行誰と行く?」みたいなイベントが起きた時とか。
ぼっちこじらせてると、絶対後悔しちゃうよ?
なんて考えてたら。
「余計な事すんな、俺は人と群れる気はない」
だってさ。
かっちーん。
言ったな。
こいつ言いやがったな。
俺の気苦労もしらずに、まだとんがりつづける気か。
その結果。
俺は「おんどりゃあぁぁぁ」と意味不明な事を言いながら、この隣のクソ野郎と取っ組み合いを始める事になった。
その後、孤高の狼ムーブを終わらせない意地っ張りな生徒&それに諦めず茶々を入れまくるキレ芸生徒の組み合わせが、学校内でよく見られるようになった。
大きな桃から始まる物語 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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