消えぬ罪業
会議室が、しんと静まり返った。
無理もない。
「
「うむ。まずはこちらを見て欲しい」
時間が惜しいのか、レオンは自身で端末を操作しはじめる。
新たに現れた
「二日前……禍の山脈のふもとを護る、常駐警備隊からの連絡が途絶えた。
「妙ですね。禍の山脈の魔物は強力でこそありますが、あの地域から離れることはないはずですが」
口を挟んだのは、青い貫頭衣を着た凛とした美女――アイナだ。
実は東方の国の王女だったりするのだが、やはり紆余曲折の後に黎一の
レオンはアイナの言葉に頷くと、口を開く。
「うむ、あの山脈の乱れた
無言の中に、かすかな緊張が混じる。
これまで統制の取れた魔物の相手をしたことが、ないわけではない。だがそうした事件の裏には、必ずと言っていいほど誰かしらの意図が隠れていた。皆、それらの事件を思い出しているのだろう。
『同様の事象は、ノスクォーツ側でも観測されている。現在は山脈北端にある、
中でも火の
『ルミニアも、状況を同じくしております。領土の西端、禍の山脈のふもとに僧兵部隊と冒険者の主力を集結し、魔物の国土進入を防いでいる状況です』
沈黙を破ったヴォルフに、パトリアヌスが続く。
「さらに昨日、調査ならびに第一次討伐部隊として派遣したカストゥーリア補佐官の部隊が……消息を絶った。カストゥーリア家が非公式に帯同させた、軍の精鋭部隊とともにね」
レオンが、苦虫を嚙み潰したような表情で言葉を継いだ。
誰も、声を発する者はない。ただ一人、マリーだけが顔を俯けている。
「ともあれ状況としては以上だ。
(ん……? ちょっと待て、それだけか?)
さすがに声を上げようとした時――。
「……待ってください!」
レオンの言葉を遮ったのは、険しい表情を浮かべた天叢だった。
「状況は分かりました。
「務めである以上、死地に赴くのは
天叢の言葉を、四方城が継いだ。至極、真っ当な意見である。
レオンはしばし沈黙を貫いていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「……たしかに道理だ。普通ならば、ね」
「どういう、ことですか?」
天叢の言葉に、レオンは重たげに言葉を続ける。
「カストゥーリア補佐官の
――
生物は元より、人間であれば個々人の
「少なくとも現状、カストゥーリア補佐官はまだ生存しているのだが……。調査中、別の人間の
「別の、人間? 他にも生存者がいるんですか?」
蒼乃の言葉に、レオンはゆっくりと頭を振った。
「いや。本来であれば、その場にいてはならない人物だよ」
「もったいぶらねえで教えろや。つまるところ、そいつが黒幕って事だろ? 一体誰なんだ、そいつは」
「いっぺん死んで来い、って言うわりには敵の情報、少なすぎるし……。さすがにちょっと、色々足りてなくないです?」
御船ばかりか、普段はこうした話に口を挟まない光河すら苛立った声をあげる。
対するレオンは、冷たい表情で黎一たちを見つめた。
「……サク・マガハラ」
――今度こそ。
集まった級友たちは、言葉を失った。
「彼とともに追放された、残りの五人の
(そういう、ことかい……)
黎一は、頭をわしわしと掻きながら得心した。
勾原たちを追放処分としたのは、王国宰相であるレオンの判断だ。扱いこそ追放だが、実態は賓客として扱わねばならない
(ヤツらが生き残った以上、あくまでヴァイスラントの不始末……。引いては
身内の恥は、身内で
そうでもなければ長年の友好国であるルミニアは元より、先の騒動の末に友好関係を構築したばかりのノスクォーツが、ここまで不平等な条件を押しつけてくるはずがない。
『ノスクォーツ側の前線は、私が督戦する。ともに
そう言うと、ヴォルフの姿を移した
督戦と言えば聞こえはいいが、ノスクォーツ側の国境を侵犯した場合は容赦なく攻撃すると言われているに等しい。
『ルミニア側も事態が収束するまで、厳戒態勢を以て事に当たります。国境付近での戦闘は、何卒ご遠慮いただきますように。ご武運を、お祈りしております』
言うだけ言い終えると、パトリアヌスも通信を終了する。
あとには、ヴァイスラント陣営の者たちだけが残された。
「……ヴァイスラント側も、ふもとの防衛線を再構築する必要がある。マリーとアイナ殿には、そちらの防衛線に回ってもらう」
「はいぃ⁉ この上、さらに戦力分散しろって言うんですか⁉」
「いざとなれば、後詰に回ってもらうさ。安心したまえ」
素っ頓狂な声で言う蒼乃に、レオンは冷たい視線を向けた。
「……儀式なのだよ、これは。君たちの世界では、
身心の罪や
消えぬ罪業は、同胞の血を以て
「改めて、
レオンの厳かな声が、会議室に響き渡った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます