第23話 全裸でやれ全裸で

 ローキックを受けて痛がっている生徒の方をみると、


「待って、ごめ……」


 などと涙目で言っている。

 いやいや大事な妹を犯されかけて待ってもごめんもあるか?

 その顔面を踏みつけるように前蹴りをかますとそのまま静かになった。


「なんだよ、ああ? てめえなめんなよ、なんだよてめえ」


 宗助が震える声で威嚇する。


「まずその手を放せ、人の妹になにする気だったんだおまえ」


 武士郎はなるべく自分の怒りをおさえつつそういう。


「妹……妹だって……? 苗字ちがうじゃねえか……」

「正確には元妹だけどな。だけど俺にとっては世界で一番大事な女の子なんだ、それをいつまでつかまえてるんだ? 殺すぞゴミ」


 宗助はおびえたような表情で舞亜瑠まあるを離す。

 舞亜瑠まあるはつかまれていた手首を離されると、その手で宗助の頭をポカン! と一発殴ると武士郎のところまで走ってくる。


「お兄ちゃん!」


 自分にすがりついてきた元妹の頭をポンポンとなでてやると、


「ちょっと待ってろ、あいつもおしおきしてやるから」

「やりすぎないでね……お兄ちゃん、フルコン空手の全国選手じゃん……」

「今はもう引退したから素人だよ」


 実際、通っていた道場は引っ越しのため通えなくなったし、同じ流派の道場はこっちになかったのでもう空手はやっていない。

 ただそれきっかけで同じ格闘技好きの柔道部の大山田とかレスリング部の八重樫と仲が良くなったんだけど。

 四人の男が痛みでうめいて床に転がる中、武士郎は一歩前に出る。

 宗助は顔を真っ青にして、


「待って、待って、悪かった、すまん、知らなかった、その女子がお前の妹とか知らなかったから……」

「でも俺の彼女だと思ったからさらったんだろ?」

「待て、待って、待って……」


 武士郎はさらに一歩前にでる、と宗助は手元にあった大きめのマグカップをふりかぶって武士郎の顔めがけてぶん投げてきた。

 それをかろうじてかわす武士郎、その間にも宗助は手になにか光るもの――ナイフだ!――を持って武士郎に襲い掛かってきた。

 武士郎はまず自分にすがりついている舞亜瑠まあるを突き飛ばしてうしろに下がらせ、相手との間合いを見切って――いったんナイフをよける。

 で、床に倒れていた三脚を拾った。

 正直武器に素手で立ち向かうのはあほのやることだからな。

 そしてこんな三脚でもナイフよりはリーチが長い。

 それを宗助に突き出してけん制する。


「この野郎!」


 宗助がナイフで斬りかかろうとした瞬間のその肩口を三脚で強く突く、ひるんだ宗助の左足に右下段回し蹴り、グギャッ、と関節の壊れる音がした、しばらくサッカーはできないだろうな、膝をつく宗助、その右手首を狙ってさらに蹴りを入れるとコキャッ! と手首の骨が破壊される音ともにナイフが床に転がる、膝をついた体勢で宗助は武士郎を見上げる、その顔は痛みと憎悪にまみれている、なんという醜い顔だ、と武士郎は思った。

 武士郎は宗助の髪の毛をぐいっとつかんで持ち上げた。


「いだだだだだ! くそ、やめろ、くそがっ!」

「俺の一番大切なものに手を出しやがって。くそはてめえだろ、このカスがっ!」


 その顔面に真正面から膝蹴りを入れた。

 メキョメキョ! と鼻骨が折れる音、宗助は目から血を流しながらふらふらと後ろに倒れかかる、その腹部に追い打ちで前蹴りをかますと一メートルくらい後方に吹っ飛び、


「きゅ~~~~~~~ん」


 宗助は子犬みたいな情けない声とともに失神した。

 四人部屋の中にいるのは武士郎と舞亜瑠まある、それに悶絶している五人の生徒、さらに裸の小島美幸。


 舞亜瑠まあるはその美幸に毛布をかけてやっている。

 わが妹ながら優しい子だなあ。

 残念ながら俺は敵に対してはそんなにやさしくできないんだよなあ。

 武士郎は鼻がまがった宗助の顔にビンタをかます。


「おい、起きろ」

「う、ううう……」

「ちょっとお前、このカメラの前で謝罪しとけじゃねえともっと殴るぞカス」

「うう……すみませんでした……」

「ん? お前、人の妹犯そうとしといてそれで謝っているつもりか? あ? 謝るっていうのはそういうもんだったか?」


 すると今度は宗助は土下座して頭を床につけ、


「ごめんなさい……」

「待て待てお前、土下座ってのは服きてやるもんなのか? 全裸でやれ全裸で」

「うう……」

「早くやれや!」


 土下座している宗助の脇腹に蹴りを入れる。


「おえええ……はいいぃぃ……すびばせえん……」


 宗助はパンツまで脱いだ全裸になるとその場に土下座する。

 武士郎はその姿をスマホで撮影しながら、

「いいか、今後俺や舞亜瑠まあるやその友達とかに手だしたらこの動画拡散するからな。二度と俺らの前にでてくんな。わかったな」

「はいぃぃぃ」


 武士郎はその後頭部に唾を吐き捨てる。

 見ると、自分の右手のこぶしが赤く皮がむけている。素手で人の顔面を殴るとこうなっちゃうんだよなあ。

 いてえなあ。

 ま、いいか。


「よし、行くぞ舞亜瑠まある。帰るぞ。……腹減ったな、クメタコーヒーにでも行こうぜ」


 武士郎は動画のデータを移し終わったスマホを床に投げ捨てる。三脚についていたやつだ。

 そういえば、もう一人主犯格がいたような気がするなあ。

 里香の顔を思い浮かべる。

 あいつはこの場にいなかったが……。

 武士郎たちがサッカー部の寮を出るのと入れ違うようにして、教師たちの自動車が数台連なってやってきていた。

 ここに来るまでのタクシーの中で、大山田と八重樫にも連絡していたので、あいつらのどっちかが教師に伝えたのだろう。

 ……あそこにあったの、ただのタバコじゃないよな、なんかの怪しい葉っぱだよな。

 廃部だろうな。


 あとは警察ざたになったら俺も怒られるよなー、さすがに。

 やりすぎたもんなー。

 多分骨折ったもんなー。

 傷害だから俺も良くて停学かもしかしたら退学か?

 まあいい、舞亜瑠まあるを守れたからこれっぽっちの後悔もない。

 よくやったぞ俺。

 ……普通に最初から警察に通報しとくのが賢かったよな、俺もあまりに怒りすぎて頭がどうかなってたぜ。

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