第11話
「……申し訳ありません。あの、殿下……“最愛のミヤ”とは一体どういう意味でしょうか? 殿下はミヤ様に好意を持たれているという事でしょうか?」
「私がミヤに好意を持っているか……だと? ふん、違う! 私とミヤはお互いにお互いの事を愛し合っているんだ!」
「……は、はい?」
私は驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまった。セシル殿下とミヤがお互いに相思相愛ですって? い、いやそんなわけない、だってそもそも貴方達は性別が……。
「なんだその腑抜けた声は? まさか私の事を馬鹿にしているのか?」
「い、いえ、そういう訳ではないのですが……申し訳ありません、非常に失礼だとは思うのですが……そ、その、殿下はミヤ様のどこがお好きなのでしょうか?」
「何だと? ふん、そんなのわかりきっている事だろう! ミヤは外見、内面共にとても美しい“女性”だ! 私はあんなにも完璧な女性を今までに見た事がない! もちろん貴様なんかとは比べ物にならない程にだ!」
「……なるほど?」
「特にあの妖艶で美しい顔立ちには目を見張るものがある! 極東の国の者特有の漆黒で綺麗な黒髪と合わさって、とても神秘的な美しさを醸し出しているのが本当に素晴らしい! そしてあの神秘的な顔立ちから繰り出される柔和な微笑みはまさに女神そのものだ!」
殿下は顔をうっとりとさせながらそんな事を言ってきた。確かにヤマト国出身の者には神秘的な美しさを持って生まれる者が多いのだ。だからそのせいで今から十年近く前にはヤマト国の子供を攫っては奴隷商に高値で売るという悪逆非道な行為が横行していた。
でも当時からの国王であったジルク陛下はその悪逆非道な人攫いなどの行為にいち早く察知して、すぐに世界中の国々と連携して取り締まりを行っていったのである。なのでもう今の時代に人攫いなどの悪逆非道な行為をしている者は誰もいない。
という事で一昔前まではヤマト国の者はなるべく自国からは出ていかないようにするという鎖国的な時代もあったらしいのだが、今ではヤマト国の出身の者でも至る国で安全に暮らせるような時代になったのだ。
そのためヤマト国出身の者でも勉強を沢山したいから他国へと留学をする者、新しい仕事に挑戦したくて他国と交流を深めていく者、他国の者と結婚をしてその国へ嫁ぎに行く者など、今ではヤマト国出身の者でも世界中に出て行くようになっていた。
なのでこの王都でもヤマト国の出身の者はチラホラと見かけたりもするのだが、その中でもミヤが一番の美しさを持ち合わせていた。そのミヤの神秘的な美しさというのは男性だけでなく女性までもを虜にする程だった。
しかもミヤは容姿端麗なだけでなく、聡明でとても優しい性格をしている女子……生徒であったので、今のセシル殿下が言ったように“まるで女神のようだ”という感想を胸に抱くのも理解できる。
「あぁ、ようやく私は生まれて初めて真実の愛というものを見つける事が出来たんだ……ふん、貴様とのまがい物の愛とは違ってな!」
「……はぁ、そうですか」
私は白熱するセシル殿下の事を横目にしながらそう一言だけ呟いた。でもここまで興奮している殿下を見るのは初めてだったので、少しだけ驚いてしまったが。
「なんだ? まるで何か言いたそうな目だな?」
「……いえ、殿下がそこまでミヤ様の事を慕っていらっしゃるとは知りませんでしたので、少々ビックリとしてしまいました。ですが殿下も仰った通りミヤ様は極東の国の民です。だから幾ら殿下がミヤ様の事を慕っていらっしゃるとしても……いつかはミヤ様も自国に帰ってしまわれるのでは?」
「あぁ、そうだな。だから貴様との婚約破棄が正式に決まり次第、私はすぐにミヤとの婚約を打診するつもりだ!」
「あぁ、なるほどミヤ様と婚約を……って、えぇぇっ!?」
流石にセシル殿下のその発言にだけは我慢する事が出来ず、私は今日一番の大声を出してしまった。
「何なんださっきから貴様は一体! 失礼にも程があるぞ!」
「も、申し訳ございません。で、ですが、その……ミ、ミヤ様には既にその事は伝えていらっしゃるのですか? ほ、ほら、ミヤ様も王立学園に通うくらいには格式高い家庭の生まれなんでしょうし、実家の方では既に許嫁がいらっしゃるかもしれませんよ?」
「ミヤに許嫁だと? ふん、仮にそんな男がいたとしても王族である私の方が身分も富も名声も全てが上回っているのだから関係ないだろ?」
「い、いやそれはもちろん、どのような殿方と比べても殿下の方が身分が上なのは当たり前でしょうけど……もしかしてそれを理由にしてミヤ様がセシル殿下に婚約者を鞍替えするとでも言うのですか? いやミヤ様はそんな狡猾な女性ではないと思いますが」
「はは、何を言っているんだアリシアは。私のような王族の男と結婚する事は世界中の女性にとってこの上なく幸せな事だろう? だから聡明なミヤが私の婚約の打診を断るはずがないだろ、愚かな貴様とは違ってな?」
そう言ってセシル殿下は私の事を見つめながら鼻で笑ってきた。あまりにも腹立たしい態度ではあるけど……でもこれ以上何を言っても笑われるだけだし、それならもう私からは何も言うまい。
「……そうですか、わかりました。それではもう私の方からは言う事はないです。どうかこれからもご自愛ください。それでは……」
私はそう言って今度こそ踵を返してこの王宮から出て行った。最後の最後に爆弾発言が飛んできたが……まぁそれは屋敷に帰ってから考える事にしよう。
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