そっちから婚約破棄したくせにやっぱりお前と結婚してやるから早く土下座して謝れですって?
tama
第一章
第1話
「アリシア! 貴様との婚約を今ここで破棄するっ!」
それはセレスティア国の第一王子であるセシル殿下の誕生パーティーで起きた珍事だった。突然私ことアリシア・レイドレッドは婚約者であるセシル殿下に婚約破棄を言い渡されのであった。
パーティーの主賓であるセシル王子は声を高らかにして私にそう言い放ってきたので、当然の事ながら周囲はざわつき出した。
「……は、はぁ」
しかし私はあまりにも唐突過ぎる婚約破棄を受けてしまったので、おもわず素っ頓狂な声を上げてしまった。
でも私は別にセシル王子に婚約破棄を告げられたからといっても特に悲観的な気持ちには一切なっていない。
何故ならこの王子は私という婚約者がいるにも関わらず、沢山の愛人を囲って毎日のように夜伽を楽しんでいるどうしようもない男だからだ。だから私としては婚約破棄をしてくれても一向に構わないんだけど……
「……あの、大変申し訳ないのですが、私が婚約破棄をされてしまう理由を教えて頂く事は出来ませんか?」
まぁでも私はとりあえず婚約破棄の理由を尋ねてみる事にした。別に婚約破棄を受ける事自体は構わないのだけど、でも私に婚約破棄を言い渡されるような落ち度があったとは思えない。
だから殿下が私に婚約破棄を言い渡してきたその理由だけは知りたかった。
「ふんっ! その白々しさはまさに悪女そのものだな、アリシア! 貴様の悪行は全てわかっているんだ!」
「私の悪行、ですか?」
セシル殿下の言葉を聞こうとしても、私はいまいちピンと来ずに首をかしげた。というか人の顔を指さして“悪女”呼ばわりされるだなんて、いくら温厚な私であっても腹立たしい気持ちになる。
「……申し訳ございません、私が行った悪行とは一体どのような事なのか教えて頂けませんか?」
「き、貴様っ……! ここまできてしらばっくれるつもりか! 貴様は私との婚約者という立場を利用して、傍若無人の限りを尽くしてきたそうだな! 学園にも通わず街中で豪遊の限りを尽くしていたと聞いてるぞ!」
「いえ、確かに私は学園を時々休んではいましたが、ですが街中で豪遊なんてしておりません」
今セシル殿下が言った通り、私はこの王都にある王立学園に通わせて貰っていたんだけど、私はその学園を時々休ませて貰っていた。
でも私が時々休んでいたのにはもちろん理由がある。それは私は学生という身分でありながらも既に社会で働いていたからだ。私はこの王都でポーション薬の研究開発を行っていた。
レイドレッド家とは代々“薬学”に精通した貴族で、身内は全員が医療に関係する職に就いている。そして私は一流の薬師になるために、幼い頃から努力してレイドレッド家に伝わる薬学や医療の知識を全て覚えきり、その後は新種のポーション薬をどんどんと生み出し続けてきた。
そしてその新種のポーション薬を生み出し続けてきた功績が認められ、私はセシル殿下の父親であられる国王陛下から“錬金術師”の称号を承ったのだ。
錬金術師とは世界中にいる学者や研究者達の中でも特に秀でた者にのみにしか与える事が許されていない特別な称号の事だ。だからこの錬金術師を名乗れる者というは世界中を探してもたったの数十人程度しか存在していない。それほどまでに希少な称号なのだ。
そしてそんな立派な称号を国王陛下から承った事で、私はこの国の第一王子であるセシル殿下との婚約を打診されたというわけだ。
私は“一流の薬師”を目指して今までずっと努力し続けてきたのだけど、でもその前に私は一人の“貴族の女”なのだ。
貴族の女として生まれたからには上流階級の男性と結婚し、良い血筋を持った跡継ぎを産まなければならない。それが貴族の女として生まれた私の役割だからだ。
だから私はこの国の第一王子であるセシル殿下との婚約を受け入れる事にした。
しかしその結果……私はすぐにその婚約を後悔する事になる。何故ならこの国の第一王子はあまりにもクズな人物だったからだ。
「しかし私が街中で豪遊してるなど、一体どこからそのような噂が出ているのでしょうか?」
「……噂だと? ふざけるんじゃない! 事実じゃないか! 財務担当の者も嘆いていたぞ、貴様がこの王宮にやってきてから王宮にかかる費用が数倍に膨れ上がっているとな!」
「数倍に膨れ上がっている? いえ、私一人が王宮に来たからといってそこまで生活費が増えるなんて事はあり得ないかと……」
「だが実際にここ数年でこの王宮にかかっている費用は数倍にも膨れ上がっているんだぞ! このままでは国民への税を引き上げる事も考えていかねばならない程にだ! 貴様のせいで国民に無理を強いる事になるんだぞ! このような事態をどう考えているんだ! 国民に申し訳ないと思わないのか、アリシア!!」
「は、はぁ……?」
私がレイドレッド家のあるアルフォス領からこの王都に引っ越してきてから二年程が経過しているが、そもそも私は王宮で暮らしてはいない。
私はセシル殿下と婚約中とは言ってもまだ実際に婚約をした訳ではないのだから、王族が住む王宮に私も一緒に暮らす事などは出来る訳がない。だから私は王宮から少し離れた所にある屋敷を間借りさせて貰っている。
なので私がこの二年程で使ってきたお金というのは基本的には王宮のお金は一切使ってはおらず、実家であるレイドレッド家から持ってきたお金を生活費として使っていた。
だから私のせいでこの国の財務状況がひっ迫していると言われても、正直私には一切ピンと来ていなかった。
「申し訳ありませんが、その財務状況の話は本当の話なのでしょうか?」
「なっ!? ふざけるな! 私が虚偽の申告をする訳がないだろう!」
「……なるほど。それでは殿下はその財務状況がひっ迫している理由は全て私のせいだと?」
「ふん、どう考えたって当たり前じゃないか! 貴様のせいでこの国はメチャクチャだ! この責任をどう取るつもりだ!」
先ほども言ったように、この国の財務状況がひっ迫している理由は私のせいでは決してない。
もし本当にこの数年間で王宮の生活費が数倍にも膨れ上がっているのだとしたら、それは私ではなく他の者に原因があるということだ。いや、財務状況がひっ迫している理由は正直私にもわかっている。それは……
(……全てアナタのせいじゃないの……)
そう、この国の財産をずっと食い潰してきているのは私ではなく、私の事を叱責しているセシル殿下なんだ。
何故セシル殿下が沢山のお金を使っているのかと言えば……まぁ先ほども言ったんだけどセシル殿下はとにかく女癖がとても悪いのだ。
私と婚約した時から既に複数の女性と関係を持っていたし、婚約後にもその女性関係を断ち切る事は一切しようとしなかった。
さらに今ではお気に入りの高級娼館を見つけてからは、週三でその高級娼館に遊びに行ってるらしい。それだけ女遊びをしていたら、そりゃあ財務状況も圧迫するというものだ。
(まぁ殿下はそんな事を認めるわけは無いでしょうけどね)
セシル殿下は婚約者の私には女遊びをしている事はバレてないと思っているようだけど、でも私にはとても頼りになる従者が一人いるんだ。その従者のおかげで私はセシル殿下の悪行はちゃんと知っていた。
「ふん、それにこれも知っているぞ! 貴様……“ミヤ”の事を散々と虐めていたそうだな!」
「……はい?」
私はこの国の財務状況や殿下の女性関係の事を頭に思い浮かべ始めていたら……急に殿下が奇妙な事を言い出してきた。
「私がミヤ……様を?」
私はその言葉の意味が全然理解が出来なくて、つい戸惑った表情を顔に出してしまった。
「ふんっ! その顔は図星のようだな!」
そんな私の戸惑った表情を見て殿下はニヤっと不敵な笑みを浮かべ始めてきた。
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