見知らぬ知人(短編)
藻ノかたり
見知らぬ知人
「また、会ったね」
目の前に立っている男が、俺に話しかけて来る。
「……」
俺は黙りこくって男を凝視した。いや、確かにこいつに会った記憶はある。しかしそれが、本当にこの男なのか確信がない。別に酒場で会ったとか、記憶障害などといった話じゃないんだが、こいつの言う事は正しい可能性もあるし、逆に間違っている可能性もあるのだ。
「あぁ……、もしかして”例の”勘違い?」
男は再び俺に言葉を発する。
「ちょっとわからないですね。ん~、じゃぁ、確認してみましょうか」
俺と男は”いつもの如く”情報のすり合わせを始めた……。
こんな情景が、世界のあちこちで繰り広げられている。
20××年、クローン技術が解放され、誰もが内臓などのスペアとして自らのクローン人間を製作するようになった。テクノロジーの発達で非常に安価に製作できるようになった事も、クローン人間の世界的な大流行に拍車をかけた
だが案の定、クローン人間の人権が問題となり、カンカンガクガクの議論の末に全てのクローン人間に人権が与えられる事になったのだ。こうして、同じ顔の人間たちが巷に溢れかえる事態となる。
それゆえ、今俺が体験しているような”会った事があるかも知れないし、ないかも知れない”という、非常に面倒な事態が世界中で起きているわけだ。
こんな事なら、最初からクローンを規制しとけば良かったんだよ。どこかのバカが「テクノロジーは止まらない」とか言って、倫理を謳う連中をねじ伏せたのが間違いだった。
唯一の救いは、この事態を受けて「テクノロジーは神様です」といった風潮がなくなり、下手すりゃ人間を支配しかねない所まで発展していたChatGPTの開発が、凍結された事ぐらいかな。
見知らぬ知人(短編) 藻ノかたり @monokatari
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