第5話 難攻不落のダンジョンへ

 準備を終え、宿屋を後にした。

 ドライデンの街は、朝から活気があって子供から老人、そして冒険者までが闊歩している。


 俺とヘリオスは、そんな和やかな雑踏の中を歩み続けていく。


 なんて清々しい天気なのだろう。

 この街の住人はみんな活力に満ちているな。


「今日はどちらへ?」

「昨日言ったろ。ダンジョンへ行くって。今日は城塞ダンジョン『ジェミニ』へ向かう」

「ジェミニですか」

「知っているのか?」

「いいえ。城塞のダンジョンがあるとは珍しいなと」


 高難易度のダンジョンだからな。

 並みの冒険者では、まず攻略不可能と聞く。

 それに少人数ではダメだ。

 パーティあるいはギルド単位ではないと。


 少なくとも最低十人はいるだろうな。

 けど、俺に仲間を増やす気はない。

 俺とヘリオスだけで十分だろう。


「行ってみれば分かるさ。行くぞ」

「分かりました」


 少し歩くと、偶然にも宿屋のお姉さんに話しかけられた。


「お出かけですか、アトラス様」

「ああ、コイツと一緒にダンジョンへ潜るよ。レアアイテムをゲットできたら、お姉さんに手土産として持ってくるよ」


「そんな、私なんかに……」


「たった一日だけど世話になっているし、いいんだ」

「お優しいのですね、アトラス様。ありがとうございます」


 お姉さんと別れ、街の外へ。

 草原フィールドは落ち着いている。

 モンスターも最弱のスライムが転がっているだけ。


 そんな、ほのぼのした自然の中を歩いていく。


 そうして真っ直ぐ歩いていると道のど真ん中で、女の子が襲われていた。



「きゃー! 助けてー!」

「おい、コラ! 叫ぶんじゃねえ!!」



 複数の男達が小さな女の子を取り囲んでいたんだ。

 な、なんてことを!


 俺はいてもたってもいられず、男達に声を掛けた。


「おい、やめろ」

「あぁ!? なんだお前は」

「女の子が嫌がっているだろう」

「てめぇに関係ねぇよ!」

「か弱い女の子を襲うとか、見過ごせるわけがない」


「んだとォ!? 野郎は黙ってろッ!」


 男のひとりがカッとなって殴りかかってきた。

 俺は当然そんなヘナチョコパンチを回避。弱いな。


「そんなもん当たるか」

「――っ!? こ、こいつ早ぇ」


「さっさと立ち去れ」

「ふざけんじゃねえ!」



 再び殴りかかってきたので、俺はそのまま立ち尽くした。

 男の拳が俺の顔面に命中する。


 だが。



『ボキッ!!』



「あんぎゃあああああああ!?」



 本当は回避するまでもなかった。

 男の拳の骨が砕けた。



「だから言ったろ、立ち去れって」

「お、お、俺の手がああああああ!?」



 周囲の男達も焦って困惑していた。



「ど、どうなってんだよ!」

「あのアンちゃんの顔、固すぎだろ!」



 ついに三人の男たちは逃げ出した。

 やれやれ、行ったか。


 俺は女の子の方へ向かい、無事を確認した。


「大丈夫か?」

「は、はい……あなたは?」

「俺はただの旅人さ。こっちのメイドは……見たままだ」

「な、なるほど。助けていただき、ありがとうございました」

「いや、ただの通りすがりさ。じゃ、気をつけて」


 立ち去ろうとすると、女の子が俺の腕を引っ張った。



「待って下さい!」

「……ど、どうした」


「わたしの名はマリナ。城塞ダンジョンに行きたいんです!」


「え……城塞ダンジョンって、ジェミニに?」


「そうなんです! そのジェミニに行きたいんです! 行こうとしたら、近所のおじさんに止められて……」



 って、まて!

 さっきの近所のおじさんかよ!!


 まぎらわしいな、おい。



「そもそも、女の子ひとりで行くような場所じゃないぞ」

「知ってます。でも、道中で誰かに拾って貰えるかなって」


「いないことはないだろうけどね。難しいと思うよ」


「目の前にいました」

「そ、それは……そうだけど、無理だ」



 さすがにこんな少女を連れていくなんて、リスクが高すぎる。守れるかどうか分からない……。


 そんな風に思案していると、ヘリオスがマリナに話しかけていた。



「マリナさん、城塞ダンジョンへ行きたいのですね」

「はい……」

「理由を教えていただけませんか」

「母の病を治す為です」

「お母さんの?」

「そうなんです。ジェミニに現れるモンスターが秘薬を落とすって聞いたんです。それさえあれば……治せるんです」



 そんな事情があったとは。

 それで一人でも向かおうとしていたんだ。


「だからって無茶だ。俺が取ってきてやる」

「ありがとうございます。でも、自分の手で入手したいんです」

「そこまでの覚悟か」

「はい……」


 少女の目は本気だった。

 ……家族を思い出した。


 アリス・ヴァンガードは、今目の前にいるマリナと変わらない歳の少女だった。


 義理の妹であり、戦災孤児で俺が拾った。幼い頃から生活を共にしていた。

 ある日、俺が勇者になると一緒に旅をすると言い出した。断ったけど、それでもついてきた。


 彼女マリナは、あの時の義妹と同じ目をしている。



「分かった。一緒に行こう、ジェミニへ」

「本当ですか!」

「ああ、ただし危険だぞ」

「承知の上です!」

「よし、出発だ」



 秘薬とやら絶対に見つけださないとな。

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