第4話 違和感
淀んだ空気の下、生臭い生命のカケラを踏み付けて、
「さて……と」
時計の針は二十二時三十一分。七崩県が
腐った土を踏み締めて、辺りを見回す。しかし、七崩県の視界に、
せめて何か、形見のような物を。と、七崩県は考えていた。マガリは未だ、波ヶ咲直が生存しているという道を信じていると語ったが、あまりにも小さな希望というのは明白だった。
しかし、本件に対する違和感。七崩県の思考を揺らすには、十分すぎる謎が犇いている。
本部が「波ヶ咲」という名だけを伝えた上で、
考えうる可能性。確信はないが、恐らくなんらかの意味を持つと、七崩県は睨んでいる。
波ヶ咲直を間接的に殺害する為か。
黒柴阿弥陀に罪を背負わせる為か。
波ヶ咲マガリを本件に巻き込む為か。
誰が何の為に立ち上げた計画か。なんにせよ、深く上層が関わっていると見て間違いはないだろう。
朝の日差しが、瞼を殴る。目を開けて意識を得たのち、マガリの脳に浅い痛みがピリッと響く。
六時三十分。まだ夏と言っても差し支えのない季節に、薄い霧が日光を透かした。マガリの隣では、静かに寝息を立てる黒柴阿弥陀の姿が転がっている。
まだアラームが鳴るには早いか、と。しかし、扉の先から珈琲の香りが透けているようで、七崩県は既に朝食と洒落込んでいるらしい。目覚めてしまったものは仕方がないと、黒柴阿弥陀を起こさぬようにして、マガリはドアノブに手をかけた。
マガリは昨日と同じ光景に、傾斜のような階段をゆっくりと降りていく。またしても同じように、テレビから野球中継の音が漏れている。今回は、朝のニュース番組で取り上げられたスポーツ特集だった。
「おはようございます……」
「おうマガリちゃん。どう、寝れた?」
コンビニでよく見るパッケージの菓子パンを頬張り、七崩県はマガリに問う。咀嚼の後にしっかりと飲み込み、珈琲で流し込んでいた。
「はい、なんとか。昨日よりは随分マシになりました」
頭に手を当て、うすらとはにかむ様にしてマガリは笑う。アメノウズメに憧れただけの、凡作の笑みである。
ならよかった。と、七崩県は隣の椅子を引く。マガリを呼ぶようにして、ちゃぶ台の一角へと案内した。
「あー……グアテマラしか無いけど大丈夫?」
七崩県は薄灰色のコーヒーメーカー横から、袋を取り出して揺らす。豆の種類など気にしたこともないマガリにとっては、何が何だか分からずに頷くしかなかった。
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