第2話 ミステリ
石化を解除した女性がきょとんとする。
目覚めたら王城にいた、びっくりするのは当然か。
ミステリアスな雰囲気があり、両耳のイヤリング以外は町娘のような服装だ。
俺と目が合った。
「おはよう」
「おはよう?」
「お名前は?」
「……ミステリ」
「ミステリか、初めまして、ミステリはさっきまで石化していたんだ。いつどこで石化したか分かる?」
「……記憶が、あいまいなの」
「そうか、出身はどこ?」
「う~ん……遠くから、来た気がする」
「覚えてないか、好きな食べ物は? 生まれた歴は?」
「ご、ごめんなさい。石化が解けたばかりで、少し混乱しているわ」
「フラグ、追い込むように質問責めにするのはやめるのだ。ミステリよ。ここはラブエルフ王国の王城だ。む、戦いの心得があるな?」
体の軸が安定している動きや視線、魔力だけで戦える事が分かる。
「……戦える、気がします」
「体調が悪くなければ外で腕前を見せてくれないか?」
「はい、大丈夫です」
ミステリとみんなで外に出た。
「紋章は何?」
この世界の人間には体のどこかに紋章が現れる。
その紋章によってジョブ適正が分かるのだ。
俺の場合は右手の甲に生産の紋章が現れている。
「赤魔法」
赤魔法の紋章は何でもそこそこ出来る器用貧乏な紋章だ。
珍しい紋章ではない。
予言フラグの事が引っかかった。
『目の前の石像はフラグに嘘をつきます』
赤魔法の紋章じゃなくても初級程度なら努力さえすれば魔法と剣を使いこなす事は出来る。
紋章を確認すれば嘘をついているかどうか分かるかもしれない。
「ミステリ、紋章を見せてくれないか?」
「……」
「ミステリ、紋章を」
「ここで、服を、脱がせるの?」
「え?」
「フラグ、体のどこに紋章が現れるかは人それぞれだ」
「あ!」
兄さんの言葉で自分の失言を悟った。
紋章を確認できないのか。
でも気になる。
そうしている間にミステリは木で出来たショートソードを持って兵士と打ち合う。
そして魔法弾を放つと兵士に当たってダウンした。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、お見事」
王が満足げに頷いた。
「戦いに慣れているようだ。フラグにミステリの面倒を見てもらうとしよう」
「分かりました」
俺は父上の目を見て分かった。
これから説教が始まる。
俺が呼ばれた本題は石化解除じゃない。
逃げられないように本当の理由を隠していたんだ。
逃げよう。
「待て! フラグ、待て!」
「何でしょう?」
「最近またやらかしたようだな?」
「何がですか?」
「とぼけるか、1つ1つ言っていく、貴族に媚薬を高値で売りつけたようだな?」
「お言葉ですが高値で売りつけたのではありません! 欲しがる貴族、そして作れる私、需要と供給が噛み合い、交渉が成立したのです!」
「そういう事を言っているのではない! それと性欲増強ポーションも抱き合わせで売りつけ価格を釣り上げたようだな?」
「釣り上げたのではありません。喜んで買って貰ったのです。夜の営みは大事」
「そういう事ではない! 風紀の問題だ!」
「お言葉ですが、金貨を貯めこんだ貴族から民に金貨を流す事で国は栄えます。特権階級への富の偏りをなだらかにすることで私はこの国の発展に微力ながら寄与していると確信しております!!」
「風紀の! も! ん! だ! い! だ!」
「……」
今日はいつも以上に父上が怒っている。
「次、森に爆弾を使いクレーターを発生させたようだな? そのせいでモンスターが森からこの王都になだれ込んだと聞いた」
「はい、モンスターがなだれ込む可能性はありましたのでギルド長にしっかりと連絡しておきました! 被害はありません!」
「防壁が傷んだと聞いたが?」
「無償で直したのでプラスマイナスゼロ、いえ、むしろモンスターの肉が手に入り、冒険者は訓練を積むことが出来た、と考えればプラスでしょう」
「ギルド長からクレームが入っていた」
「この程度の事に対応できず、有事の際にどうしますか! 実践訓練は必要です!」
「ふん」
父上はイラついたようにため息をついた。
「城で魔道具の実験をし、3回部屋を爆発させ、学園の寮を4回爆破し、その後は森に自分で家を建てさせ自活させたがそこでも3回爆発を起こしてその後森で爆発を起こしたか」
父上を見ていると自転車につけていたサイクルコンピューターを思いだす。
俺がやった事をすべてカウントしてずっと覚えているのだ。
いや、野鳥の会の方が近いか?
「今回は事故ではなく狙っての爆発です。問題ありません!」
「はあ、森の分を除いても10回爆発を起こしている」
「……」
「……もっとやっているな? 顔を見ればわかる。何回爆発させた?」
「計13回です! しかしすべて修復済みです!」
「それだ! その顔だ! 建物を破壊し、皆に迷惑をかけておいて、直したから問題無いですと顔に書いたようなその顔がむかつくのだ!」
「天使のような我が子をむかつくなどと」
「だまれええええええい!」
これはいつもの事だ。
親と子のコミュニケーション、兵士もにこにこしながら生暖かいまなざしで俺達を見つめる。
法治国家として法を守る事だけを追求すればどんどん息苦しくなっていく。
多少のゆるみも必要なのだ。
「フラグ、まさかとは思うが、これも家族のコミュニケーション、などと考えてはおるまいな?」
「いえ、決してそのような事はありません! キリ!」
「ち!」
うわ、舌打ちしたよ。
「最期に、ギルド長の説教を受けた後、ギルドへのポーション寄付を怠っているようだな?」
「孤児院にいる恵まれない子供の為の寄付を厚くするために仕方のない状況でした!」
「違うな、お前は寄付のカードを使って己の都合がいいように貴族やギルドなどを操作しようとしている。そして寄付であるが故に追及されることは無い、責任を取られる事が無い状況からギルドに圧力を与えて己の影響力を高めているのだ」
「そう思われぬよう以後気をつけます!」
「……今すぐに回復ポーションを1000本、ギルドに寄付をするのだ」
「……はい」
ち、圧力がまだ足りないが、仕方がないか。
説教が終わると兄様が俺を呼んだ。
「フラグ、相変わらずだな」
「兄さん」
「少し2人で話をしようか」
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