可愛い雑貨屋さんと可愛くない噂
次に訪れたのは雑貨店で、こじんまりとした店内に、可愛らしい形の
商品で彩られた陳列棚そのものが、一種の作品のようだ。
二人は店内で分かれ、それぞれ興味のある物を探しに行った。
この店の商品は一部がハンドメイドであり、作業場に大きな窓がついていて、客が製作の様子を見られるようになっている。
手のひらサイズの妖精がアクセサリー作りに励んでいるのが見え、商品に緻密で精巧なデザインの物が多い理由をうかがい知れた。
しばらく店内を練り歩いた後、アカネは、なんかカッコいいからという理由で赤い魔石のはめ込まれた髪飾りを購入し、ついでに、棒付き飴などの可愛らしいお菓子もいくつか購入した。
この世界の金など持っていなかったアカネだが、別に旅の資金から雑貨代を出したわけでも、アオイにたかったわけでも無い。
実は、アカネ達は国家公務員ということになっており、それぞれ個別に給料をもらえることになっていた。
そして、今月分の給料が既に彼女の口座に振り込まれていたので、アカネはそれを使って雑貨や猫カフェのお代を支払っていた。
給料の額は市民の一月分と同等か、それよりも少ないくらいなのだが、個人で自由に使い切ってよい小遣いと考えれば、それなりになる。
チマチマと節約して貯金額を増やすという生活をしていたアカネにとって、かなりテンションの上がる話だった。
一方、アオイの方は店主と話し込みながらブラシを吟味している。
ブラシに使われている毛の材質から話し合っていて、とても素人が介入できる雰囲気ではない。
暇になったアカネが、ボーッと外を見ていると、レイドとミドリが手を繋いで歩いているのが見えた。
レイドの方は涼しい顔をしているのだが、ミドリの方は明らかに狼狽えて赤面し、繋いだ手のひらが気になって仕方のない様子だ。
レイドから事前に渡されていたメモには、アカネたちの雑貨屋の名前は無く、ここで互いの存在に気が付いてしまったとしても不可抗力ではある。
だが、だからといって本当に気づかれてしまえば、折角のデート気分が台無しだろう。
見つかってはいけない! と、反射的にアカネはテーブルの下へ隠れた。
はたから見ればおかしな人だが、アカネなりに、デートを思う存分楽しませてあげようと気遣った結果なのだ。
隠れてから数分が経過し、そろそろ出ようかと四つん這いになった時、ふと、気になる会話が耳に飛び込んだ。
「ねえ、知ってる? 向かいのお家のお子さん、いなくなっちゃったみたいよ。あの子も誘拐されちゃったのかしら」
「どうだか。だってあそこの家、いっつも、子供の泣き声がしていたじゃない? いつ見てもあざだらけだったし。家出か、そうじゃなきゃ、どっかに売り飛ばしたんじゃない? 子供たちがいなくなってるっていう割には、騎士たちも全く動いていないみたいだし。誘拐の噂なんて、嘘っぱちでしょ」
「ちょっと! 何てこと言うのよ。それに、子煩悩で有名な八百屋さんのところの子も、いなくなってるのよ。近所づきあいをしないアンタは知らないだろうけど、本当に子供が消えてるの。うちの子は大丈夫かしら。不安だわ……」
中年くらいの女性二人は、かしましく騒ぎ合った後、店の外へ出て行った。
二人が話していたのは、昨夜マナが話していたものと同じ話だろう。
『改めて聞くと、とんでもない話よね。物騒で嫌だわ。というか、世直しの旅なら、こういうのを解決すべきなのかな?』
まだ自覚は薄いが、それでも一応は自分の役割を理解しているため、アカネが事件に対して思いを馳せていると、アオイがペラッとテーブルクロスを捲った。
「何やってんだよ。店内でかくれんぼして遊んでも許されるのは、ギリギリ幼稚園生までだぞ」
彼女はアカネの奇行に苦笑いを浮かべている。
慌てるあまり、衝動的にとってしまった行動に遅れて羞恥心がやって来て、アカネは頬を赤く染めた。
「いや、まあ、レイドから隠れようと思って。ハハハ……ところでそれ、凄い量ね。もう買ったの?」
アオイの持つ、パンパンに膨らんだ紙袋と片腕に抱えられた溢れんばかりの量のお菓子を見て、目を丸くした。
紙袋の中には、数本のブラシと一緒に、獣人用の毛を保湿するオイルと肉球を保湿してモチモチにするオイル、そして数本のヘアクリップとマナへのお土産用の可愛らしいリボンが入っている。
アオイは頷くと、アカネのリュックサックに紙袋を突っ込んだのだが、お菓子の方は器用にポケットの中へとしまっていった。
パーカーの腹の辺りについた大きなポケットや、ジーパンについている飾りのようなポケットの中へスルスルと菓子が入っていき、あっという間にお菓子の山は姿を消した。
『凄い収納技術。というか、あれ? アオイって、あんなにお菓子食べたっけ?』
アオイは甘い物が好きだが、お菓子を持ち歩く習慣がなく、あまり量も食べなかった。
おまけに、チラリと見たお菓子は、子供が好みそうな可愛らしい見た目の物が数個ずつ袋に詰め込まれた、プレゼント用の品だ。
アカネは、屋敷の使用人たちにでもあげるのかな? と首を傾げた。
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