陰キャ君 恋になる前の物語
甘月鈴音
第1話
「影森君、おはよう」
「ああ。おはよう」
そう挨拶してくるのは決まってリーダー気質の取り巻きの女。
学校の廊下を歩けば、すれ違う度に黄色い声が上がった。
「きゃー。今。
近づいて来る女に、リーダ気質の女が、すかさず牽制する。遠巻きから女たちはキラキラとした目を向けていた。
最近この生活に疲れてきた。
「影森君、これ私達から」
眠気覚ましに自販機のブラックコーヒーを渡された。
「ありがとう」
受け取ると、取り巻きの女は鼻を高くし誇らしげに笑った。
にこりと笑って見せると、女は頬を染めるている。
──はぁー。まったく。冗談じゃないわよ。私はね。ブラックコーヒーが飲めないの。苦いじゃない。せめて微糖にしてよね。
内心ではそんなことを、毒づく。
「素敵」
「クールよね」
「一匹狼って感じ」
影で女たちがそんな風に私を
学校は
私の父はまともなサラリーマンの男だった。子供のため妻のため必死で働き家庭を大切にしてきた。
ところが。私が産まれて間もない頃。母は他に男を作り、子どもと旦那を置いて家を出てしまった。
父は落ち込み『女など信じない』そう言って、父は男に走り、なんとオカマの道を選んだ。会社を辞め、オカマバーを経営し、男で一人で私を育ててくれた。
従業員のオカマの人たちも、いい人ばかり。
『時雨ちゃん。そんな汚い言葉使っちゃダメ。もっと柔らかくよ』
『ほほほ。偉いわ。よく出来たわね』
バーの二階が家だったため、遊び相手や食事、勉強はいつもオカマたちだった。
そうなると。必然的に言葉遣いや、仕草が移るわけで……。
『──気持ち悪い』
小学生の頃。オカマ言葉を使ったら、友達だと思っていた男の子にそう言われた。
『近づかないで』
好きだった女の子に、そう言われた。
『あの子と関わっちゃいけません』
オカマの子供と言うだけで、大人たちは偏見して私を遠ざけた。
──なんだかバイ菌みたい。
回りからはハブにされ、私はひとりぼっちだった。当然ホントの友達なんて、できたことない。嫌がらせもいっぱいされた。
虐めが怖くて、目立たないように、伊達眼鏡をして、顔を隠すために前髪を伸ばし、空気のように生活をした。
淋しい毎日。辛いときは、父やオカマの人が作ってくれた縫いぐるみを、ぎゅっと抱く。家にある縫いぐるみたちが私の唯一の友達だった。
だから暇な時間はすべて、縫いぐるみの服を作ったりして、趣味の手芸に勤しみ、小中学校をやり過ごした。
「──こんなんじゃダメ。友達が欲しい」
中学を卒業するころ、なぜか急に色々と嫌になり、私は父を説得して高校は遠くを選ぶことにして家を出た。
そうして迎えた高校生活。オカマ言葉や仕草を封じて生活。伊達眼鏡を止めて邪魔な前髪を切った。
するとどうだろうか。急に女の子の見る目が変わったのだ。
「一緒に写真撮って下さい」
なんて入学式で言われ舞い上がったわ。勿論性格を隠してよ。できるだけキリっとして、ふにゃふにゃしない。極力シンプルにする。
そんな生活を続けた。でも、自分を偽って生活するのが、こんなにも窮屈だなんて思いもしなかった。あんなに意気込んで家を出たのに肝心の友達もいまだ出来ない。
──私はだた、気の許せる本当の友達が欲しいだけよ。
それなのに嫌になっちゃう。男には妬まれ、女には崇められる。ちっとも仲の良い友達なんて、できやしない。
「はぁぁぁ」
私は盛大に溜息をこぼした。
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