第143話  『異次元アトリエ』

 場所は変わって外に用意された日本の仮設テントの待機場に真白達は来た。


「どうだい白ちゃん。こんだけあれば足りるかい?」

「十分です。もし足りなかったら手持ちの素材でも何とかなります」


 今、真白の目の前には大型トラックの荷台の大きさのコンテナが七つある。その中には、魔石や鉱石、その他モンスター素材が大量に詰め込まれている。

 これは真白が無理を言って、協会所有の大型飛行輸送機を使って運ばれた物だ。


「……凄い量の素材だな」

「ましろちゃん……こんなに沢山の素材何に使うの?」


 桐島と相良もその量を見て驚いている。


「龍也、こっちは準備出来てるわよ。何すればいいの?」

「僕も準備出来てるよー…ってか〜、僕は〜殆どの部下に〜、ポーションと〜マナポーションを〜先に作らせてるよ〜」

「麗花、柊作…待たせたな」


 龍也のクラン、『生産組合』の幹部の浅川麗花と矢口柊作が龍也に声を掛ける。


「龍也。取り敢えずコンテナ三つは私達で、四つは真白ちゃんのでいいのよね」

「ああ、それでいいぜ。取り敢えず手の空いてる奴らに俺らの分だけ運ばせろ。そして幹部連中はこの後他国の生産職達とアイテムの分担や製作の割り振りの話しがあるから参加しろよ」

「龍也〜……それ僕も参加しなきゃダメ〜?」

「…………柊作。……お前はポーション制作をしてろ。……その代わり、この場の指揮をしてくれ」

「分かった〜」


 幹部の中で一番の変わり者の柊作はいつも通りマイペースだ。


「ねぇ、龍也。真白ちゃんの分はどうすればいいのよ? まさか一人で運ばせる気?」


 麗花が真白の分の素材についてどうするのかを訊く。確かに、いくら真白の分とはいえ、コンテナ四つ分の素材を真白一人に運ばせるのはどうかしている。当然の質問だ。


「ましろちゃん、うちから何人か手伝わせようか?」

「白岩さん、こっちからも出すぞ」


 相良と桐島は真白に荷運びの手伝いを申し出る。


「あ、大丈夫です。なんとかなるので」


 しかし真白はそれをことわった。


「なんとかなるって、この量をどうやって作業場まで運ぶのよ。……それに敢えて突っ込まなかったけど…真白ちゃん、貸し出された作業場も限られてるから、この量は流石に多過ぎるわよ。真白ちゃんの『時空間袋』に仕舞うならなんとかなるかもだけど、真白ちゃんが作業するには狭いと思うわ」

「あぁ、そこも大丈夫です。作業ならここでやるので」

「「「「え?」」」」


 真白はここで作業すると言うが、ここは屋外だ。室内でない為作業しずらい。それに、周りの目もある為注目だって集めるだろう。ただでさえ人見知り気質の真白が何故そんな事を言うのか、周りの者達は分からなかった。


「白ちゃん、は俺以外は知らないだろう」

「あ、そうでした。うっかりしてました」


 どうやら龍也だけは真白の言ってる事が分かってるらしい。だからこの後、真白のやる事も分かっているのだ。


「とにかく時間が無いので始めますか」


 そう言って真白は腰のポーチに手を入れて何かを取り出す。


「あ、危ないので、少し離れてください」


 取り出したのは、手のひらより一回り小さい白い正六面体のキューブだった。

 真白はそれに自分の魔力を流し込み地面に転がす。


「展開! 『異次元アトリエ私のアトリエ』!」


 真白の言葉を言い終えると、転がしたキューブが宙に浮き上がり、そして線が入りルービックキューブの様になる。するとそれがまるでパーツの様にバラバラになった。すると、今度はそのパーツが倍くらい大きくなったのだ。

 しかし、それでは終わらない。今度はバラバラになり大きくなったパーツに最初と同じ様に線が入り、またそれぞれバラバラになり、また大きくなる。

 線が入る→バラバラになる→大きくなる→線が入る→バラバラになる→大きくなる→線が入る————これを何回も繰り返し、やがて少し小さめなコンテナハウスくらいの大きさで止まった。


「「「「…………………………………」」」」


 周りの者達は言葉が出なかった。しかし、誰もが思っただろう。「何だアレ!?」と。それに、遠巻きに見ている他国の探索者達も同じ反応だ。


「おー、相変わらずスゲェなこれ。羨ましいアイテムだぜ」

「龍也さん。前も言いましたけど量産は出来ませんよ」

「分かってるって」


 唯一分かっている龍也だけは、面白いアイテムを見る時の顔になっているが、物欲しそうな声をしている。


「真白ちゃん……何コレ?」

「これですか? これは私のアトリエです。正確に言うなら、『異次元アトリエ』というアイテムで、持ち運びが出来る工房ですね」


 真白は麗花の質問にざっくり応えた。

 しかし、真白の言ってることはなんとなく理解出来たが、目の前で起きたことに対して頭の中の理解が追いついていない。


「さてと…ロックゴーレム、君達に決めた!」


 次に、真白は以前佳織の特訓の時に使ったゴーレムの形になる核、通称『ゴーレムボール』を七つ投げ、七体のロックゴーレムが姿を現した。


「ロックゴーレム達、そのコンテナの荷物を運んで」


 真白が命令すると、ゴーレム達は言われた通りコンテナから荷物を運び出す。


「それじゃあ、私は作業してますので、何かあったらそこの呼び出しボタンをして下さい」

「「「ちょっと待って!!」」」


 何にも無かったかの様に作業を始めようとした真白に、流石に我慢出来なかった為周りの者達が呼び止める。


「ましろちゃん。……よく分からないけど、このコンテナハウスはましろちゃんの工房なのよね?」

「真白ちゃん……見間違えかしら。……そのコンテナハウス……作業場として小さい…というより、この量の素材が入る様には見えないんだけど」

「真白ちゃ〜ん、これなぁ〜に〜? 凄く面白そうだねぇ〜!」


 それぞれ気になる事を真白に質問する。

 柊作に至っては珍しいアイテムに対してのただの好奇心だ。


「それなら説明するより見てもらった方が早いですね。着いて来て下さい」


 そう言われ、周りの者達が着いて行く。

 そして、真白が扉の横にあるパネルに手を当てる。これは真白の家の工房の地下室にある魔力の認証システムと同じだ。

 魔力の認証が終わると、自動ドアの様に扉が開いた。けれど目の前には曇りガラスの様な物があり中が見えない。


「ちょっと待ってて下さい」


 そう言って真白がコンテナハウス異次元アトリエに向かって進む。すると、曇りガラスの様な物をすり抜けた。流石に慣れたのか、真白と親しい者達はこの程度もう驚きはしなかった。それでも、遠巻きに見ている者達は驚きっぱなしだが。

 真白が入ってから数十秒後、突然曇りガラス(もどき)が消えた。


「どうぞ入って来て下さい。通れるようにしたので」


 そう言われておそるおそるだが歩きだす。龍也と柊作に至ってはやや早足だ。なお、柊作はただの好奇心な為物事をあまり深く考えてない。

 そして、全員が扉を潜ると、目にした光景はまさに異次元だった。


「ようこそ! 私のアトリエへ!!」


 そこは、何処かの大きな工場と言えるくらいの広さのある工房だった。

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