第70話 今後の方針
『……………真白……今、あなたが探索していた姿が、ネットで生配信で流れていたわ』
「……………………………………………え?」
真白の思考が一瞬停止した。だが、即戻り持ち前の思考力で頭の中を整理する。
『ネット』『生配信』『流れてた』、このワードだけで自分が何をやったのかを理解してしまった。
「……じ…事故ったぁーーー!!」
真白の叫び声がダンジョンに響き渡る。
「み、みみ、翠さん! これって、配信事故ってやつですよね!」
『とにかく、まずはカメラの電源を落としなさい』
「あ! はい!」
真白は慌ててカメラの電源を落とす。
電源が切れたのを確認し、時空間リュックにしまう。
「……………翠さん……どうしましょう?」
『……とにかく、過ぎた事は仕方ないわ。あなたはまずホテルに戻りなさい。今後の事はその後話しましょう』
「はい……」
その後、真白は憂鬱な気持ちでホテルに真っ直ぐ帰った。
————————
『じゃあ真白。さっきの話の続きをしましょう』
「……はい」
場所は真白が泊まっているホテルの部屋。
ホテルに戻って来た真白は、直ぐに翠に連絡をし、配信事故について話す。
『いや〜白ちゃん、派手にやらかしたね!』
『石井君……あなた、面白そうて言って、ノリノリで観てたじゃない』
そして、今回の配信事故について話し合ううえで、龍也と相良も加わり、リモートで話す事となった。
『取り敢えず、…真白、質問いいかしら』
「はい」
『どうして『録画モード』と『LIVEモード』を間違えたのかしら? 説明書は読んだの?』
「……以前、クソ獅子と戦う前に生配信しながら戦ってと言われて、翔さんから教わった通りやればいいと思って、説明書を読まずにやりました」
『……なるほど、そう言うことね』
『けど、ましろちゃんはどうして持って無かったの? 発明したのはましろちゃんよね……』
「必要性が無かったからです。今までダンジョン内で動画の撮影とかは、危険なので殆どしたこと無いです。それに、撮影することがあっても携帯の録画機能で充分だと思ってましたから」
真白は今でこそSSSランク探索者だが、本来なら生産職の錬金術師だ。戦闘なんて普通はしない。
実は真白は誰にも話してないが、ちょうど1年くらい前まで、何度も死ぬ寸前の戦いが日常茶飯事だった。しかも週に二、三回のペースで戦っていた。その為警戒心が強く、いつ何があるかわからないダンジョン内では、電話なんて一切しない。稀に地形の把握や『邪魂シリーズ』の能力確認の動画撮影をするが、それは必ず安全圏でする。普通なら時空間バックにカメラを入れたらいいと思うが、容量は限られてる為少しでも多く素材を持ち帰りたい真白は、無駄な荷物になる様な物は持ち歩かないのである。
「……取り敢えず、今後は『LIVEモード』での配信はしません」
『まぁそうよね』
『それが一番いいかしらね。幸い今回の配信に対しての世間の反応は事故って認識だから』
真白は今後は気をつけて録画しようと決めたが、そこに龍也がとんでもない事を言う。
『白ちゃん……ちょっとそれは難しいかもしれない』
「え!!」
『事故とはいえ、SSSランクの生配信は世間ではかなり高評価だぜ。しかも、白ちゃんは今一番話題の探索者だ。また配信してほしいと言う声が現在進行形でネットに上がってる』
「そんなの知りません! 何で態々撮影しながら探索なんてしなきゃいけないんですか!」
真白は八つ当たり気味に不満を言う。当然と言えば当然だ。なにしろ、生産職にも関わらず、素材収集の為に命懸けでダンジョンへ潜っている。その為誰よりも死にかけた戦いは探索者の中でも一番経験してきたと自信を持って言えるだろう。そんな危機管理能力が人一倍高い真白が撮影を意識して探索などするはずがない。
『でもましろちゃん、カメラは自動で追尾撮影するから、あまり意識しなくてもいいと思うわよ……』
「大型や大規模集団のモンスターと対峙する時に偶にですけど、超大規模攻撃をしますよ。カメラがこの攻撃に耐えられますか……」
『……………』
『白ちゃん……普段どんな風に探索してるんだい?』
普段の真白の探索は至ってシンプルだ。
①ダンジョンのモンスターの情報を集める
②ダンジョンへ向かい目的のモンスターの階層に行く
③【探知】スキルで細かな地形とモンスターの位置を把握する
④目的のモンスターまで戦闘を避けて最短で向かう
⑤モンスターを倒して素材回収
⑥速攻で帰る
こんな感じでいつも潜っている。
因みに、この中で真白は①と⑥を最も重視している。この二つは、生存率を高く上げると真白の経験則でそう思っている。
殆どの探索者はモンスターを倒して資金稼ぎを優先しているが、真白はまず生き残る事を優先している。
しかし、生き残る事が優先なのに、死ぬ寸前の戦いをする矛盾の行動に、真白は密かに自分自身に呆れている。
「とにかく、私は今後、今回の様な調査依頼以外での撮影や配信はしません」
真白はとにかく配信はする気はないらしい。世間がどれだけやってほしいと言っても、真白は生存率を少しでも上げる為に配信はする気はない。だが、それ以上に、人見知りの真白にとって配信は酷である。大勢に見られるとなるとどうしても意識してしまう。
『じゃあ真白は今後は配信はしないつもりね』
「はい」
『ましろちゃんがそこまで言うなら、しなくても良いと思うわ』
『これは強制できなぇからな……』
とにかく、4人の中では、真白は今後配信活動はしない流れで話しをする。
『……しかし、白ちゃんが配信しないとなるとネット界隈でどうなるかだな? 配信活動はするしないは本人の意思だから納得する人は多いだろうが、中には批判する声もあるぜ』
『それもそうね……』
『理由を言えば大丈夫だとは思うけど…』
「理由を言ったとしても、批判する声は絶対に有りますよ……」
真白はリモート通話しながらネットでの自分の事故配信の視聴者のコメントを見る。コメントでは、『【探知】の範囲が広い』や『釣りの餌(ゾンビ)笑』『マッピングがスゲ〜!』と色々あるが、殆どは真白の…いや、SSSランクの戦闘が見れた事だ。
SSSランクが戦ってる姿を見る機会など殆どない。それが配信で観れるなら視聴者の娯楽としてはいいだろう。
『しょうがないわ。色々ネットで言われるかもだけど、できないものはできないから』
『仕方ないわよね』
翠と相良はどうしようもないと思い、この話は終わりにしようとしたが———
『あ、そうだ』
———龍也が何かを思いついた。
『白ちゃん、もし配信するとしたら、階層ボスだけならどう?』
「…石井さん…今、今後はやらないて言いましたよね……」
『いいから、話しを聞いてくれ。…白ちゃん、最近『亡者の邪魂』の入荷が凄く減少しているだろ?』
「そうですね。だからこうして自分で収集しているんですが……」
『白ちゃんがもし、階層ボスだけを配信するなら、入荷量が増えるかもしれないぜ』
「……えっ?……………!! そうか、そう言う事ですね! 石井さん!」
『はっはっはぁ〜、いつもの白ちゃんに戻ったね。そう言う事だ』
「ありがとうございます石井さん! 配信事故のせいで、どうやら私の思考が鈍ってたみたいです」
『今の短い会話で理解できるだけでも凄いんだぜ、白ちゃん。………で、どうなん?』
「ん〜〜……できるできないで言えば、できますね。ただ、安全マージンはとりますが……」
『それでも充分だぜ』
「そうだ、もし入荷量が増えたら安定するまで買取価格を少し上げてください。私も今までよりも倍の額で買い取りますよ」
『人を動かすのが上手いな白ちゃんは、そしたこちらも全力で応えるぜ。…それに、俺と白ちゃんの仲だ、少し色を付けるぜ』
「流石天下の『生産組合』のトップ。商売上手ですねー」
『「……フッフッフッフ」』
真白と龍也は二人の世界での会話をしていて忘れていたが、この会話を聞いている者が居るという事を。
『『ちょっと待って! 二人して何を企んでいるの!!』』
翠と相良が悪巧みの様な会話をしてる二人の事を止める。
「あっそうだ、翠さんと天月さんが居たのを忘れてました」
『そうだったな。……と言う事で、翠ちゃん、天月さん、白ちゃんは今後階層ボスだけなら配信するみたいなので、今後の方針は決まりました』
『だからなんでいつも二人で勝手に話し進めるのよ! この悪巧みコンビがぁー!!』
翠が通話越しに、耳が割れんばかりの怒鳴り声を上げる。
「翠さん、私達は悪巧みなんてしてませんよ」
『そうそう、生産職として真っ当な商売の話しをしてるんだ。決して悪い事はしないぜ』
『アンッタらの会話は悪巧みの様にしか聞こえないのヨ!! セッ得力が無いに等しいくらいにネ!』
『ハァ〜〜〜………。翠ちゃん、取り敢えず話しを聞きましょう。……二人共、理由を詳しく話しなさい』
相良は怒りで我を忘れかけてる翠を一旦落ち着かせ、真白と龍也に珍しく少し厳しめな命令口調になる。
『俺から話しますね。…もう知ってると思いますが、俺は『亡者の邪魂』をドロップした探索者から買い取ってます。そして、殆どの探索者には価値がない物なので買取価格をそこそこ高くして、俺が白ちゃんに全部売っています』
龍也は一から詳しく話していく。
『そして白ちゃんに売った物は全部、白ちゃんの実験や研究(メイド造り)などに使っています。…だよね? 白ちゃん』
「はい。付け加えるなら、私は世界中のフリマサイトでも見つけ次第全て買い占めてます」
龍也と真白は『亡者の邪魂』の入手方法の経緯と理由を言った。
『で、ここからが本題ですけど、ご存知の通りアンデット系モンスターの階層は攻略が大変ですし、ドロップ品はほぼ魔石しか価値がないので不人気です。だから態々探索する探索者が居なくて、実はここ数ヶ月の『亡者の邪魂』の入荷量が結構下がってるんですよ。だから、白ちゃんがこうして自分で収集しているんですが……もし、白ちゃんが階層ボスだけの攻略法を配信したとすると……『亡者の邪魂』は今のところ階層ボスしかドロップしないので、階層ボスの攻略法だけでも配信したら入荷量が増えるかなぁと』
龍也は自分の考えを全て相良と翠に話した。よは、階層ボスの攻略法だけでも配信したら、『亡者の邪魂』の入荷量も増え、龍也は真白に売って儲けて、真白は真白でメイド造りの実際と研究の為の素材が増えると言う考えだ。しかも、アンデット系のドロップ品はうまみが無いが、『亡者の邪魂』は『生産組合』が高く買い取り、探索者にとっても利益がある。
『……………ハァ〜…そう言う事ならわかったわ。ましろちゃんが良いなら私は何も言わないわ』
「『ありがとうございます』」
真白と龍也は相良に理由を話し、なんとか了承を得た。
『まったく……そう言う事なら最初から私達も交えて説明しなさいよ。いつも二人だけで話しを進めるんだから』
翠は呆れつつも、反対はないらしい。
こうして、真白の配信での、今後の方針が決まった。
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