第6話  『暁月の彗星』の暁月翠

「よし、今日は新しい武器と装備を考えますか」


 翌日真白は学校から帰宅し、工房で作業に取り掛かる。


「深層では今の武器装備じゃ心許ないから、全て一新しますか…とりあえずよく使う銃、レイピア、片手剣、盾から手をつけよう……あ、そういえば翠さんが連絡してほしいて佳織が言ってたよね…忘れてた…今から電話しよう」


 さっそく真白は佳織のクランのクランマスター、暁月翠あかつきみどりに電話をかける。


————————


「…あ、翠さんこんにちは、真白です。連絡遅れてすみません」

『こんにちは、真白…なかなか連絡こないから忘れられたのかと思ったわ』

「………大丈夫です。忘れてませんよ」

『…今の間は気になるけど…まぁ、いいわ…それよりもこの間の新装備ありがとう。注文通りの性能と最高な使い心地だったわ』

「それは良かったです! レア素材を沢山使って、私の持つ技術で全力で造りましたから! あ、新宿ダンジョン階層記録更新おめでとうございます」

『ありがとう。でも私だけじゃなくクランメンバーの力と『生産組合』、あと真白の造ってくれた装備やポーションのおかげよ』

「そう言っていただけると、頑張って作った甲斐があります。装備は私が定期メンテをしますので、忘れずにお願いします。いつでもメール下さい」

『えぇ、大切に使わせてもらうわ……ねぇ真白、やっぱりうちのクランに入らない?』

「翠さんも分かってますよね。私が集団で行動するのが苦手なのを。…それにこんな事言うのは失礼ですけど、そちらのクランは戦闘職が多いですよね。生産職との折り合いがちょっと…」

『…そうね、うちも中規模クランの時はまだそんなことなかったけど、大規模になると古参はともかく、新参のメンバーはまだ戦闘職優遇の考えがあるからね…私の立場で真白を特別扱いする事もできるけど、いろいろと面倒な事になるし』

「そうですよ、ですからお気持ちだけお受け取りします。それに私、今みたいにダンジョン潜って素材収集して、自分の商品を造って売って、色々な事を研究しながら自由にやるのが楽しいですから」

『そっか、その方が真白らしいわね…佳織に真白を紹介されただけでもうちのクランは幸運ね…でもダンジョン内では気をつけて、真白ならよっぽどの事がない限り大丈夫だと思うけど、何があるかわからないから』

「ご心配ありがとうございます。けど大丈夫です。"命を大事に"を常に心掛けて潜ってますので、ヤバイと思ったら直ぐ引きます」

『本当そうしてちょうだい。真白を失うのは、うちだけでなく皆んな嫌と思ってるから』

「心配しすぎです。それでは、自分は作業に戻ります。何かご注文がありましたら承ります」

『あら、じゃあさっそく体力回復ポーションと魔力回復ポーションを100本ずついいかしら』

「ご注文承りました。いつもどうりそちらの転送陣に商品と明細書をお送りします。支払いは転送陣で現金をお送りください。それでは失礼致します」


————————


〈翠視点〉


「ふぅー。本当に大丈夫かしら」


 翠は始め、佳織から「スゴイ錬金術師がいるんですけど会ってくれませんか!」と言われて紹介された。最初は戸惑ったが、佳織は当時から新参にしては実力はもちろん、良い装備をしていた。訊いてみると、その錬金術師が造ったらしい。それで興味を持ったので会ってみることにした。

 そして、初めて真白に会った時、背筋が凍るように震えた。錬金術師と訊いていたが、ありえないと思った。何故なら当時の真白からは、強者オーラを感じたからだ。

 戦闘職の探索者は強くなればなるほど、相手の力量が感覚でわかるようになる。錬金術師は生産職だ、けれど真白からはそこら辺の腕の立つ戦闘職よりも放つオーラの圧と濃度が違った。

 私は、詳しく話しを訊いてみると、ありえない事だらけで思考が追いつかなかった、私の中で錬金術師の常識が崩れていった。

 モンスターのドロップ品に引けを取らずまたはそれ以上の武器装備や本職よりも優れた素材やアイテムの製作、極め付けは本人自身が戦闘をし、研究で身につけた知識の数々など、本当に錬金術師の少女かと思った。

 私はクランに入ってくれないかと誘ったが断られた。理由を聞くと周りのペースに合わせて行動できないのと、生産職の扱いである。

 探索者は戦闘職が命をかけてダンジョンから資源や素材を収集してくる。生産職はそれで生産を行い戦闘職をサーポトする。しかし、数十年前は、戦闘職が命をかけてるんだから、優遇されて当然だと、生産職を冷遇していた。

 今では、『生産組合』という生産職中心のクランができ、素材と商品の販売を担い、生産職を冷遇する探索者やクランを相手しなくなり、クラン内で冷遇されていた生産職は全員『生産組合』に移った。そのせいか、腕の立つ生産職は全員『生産組合』に所属しアイテム不足になったクランがあったらしい。因果応報である。そのおかげもあってか、生産職に対する冷遇も徐々に収まっている。けれど完全にとは言えない。

 現在でさえ、未だにそういう輩はいる。特に真白は生産職の中でも不遇の錬金術師だ。冷遇されないとは言えない。惜しいけれど私は勧誘を諦めた。強引な勧誘は真白を紹介してくれた佳織にも失礼だと思ったからだ。


「今の『暁月の彗星』があるのも真白のおかげだし、真白には私や『生産組合』が後ろ盾になってるから、何かあったら守ってあげなくちゃね」


 そんな独り言とを言っていると——


「姉貴、この間見送った攻略についての会議そろそろ始めたいんだけど」

「翔、何度もドアをノックしてから入れと言ってるでしょ」

「家ならともかく、ここはクランハウスだから別にいいだろ。姉弟なんだし」

「最低限のマナーを守れと言っているのよ」


———クランマスターの執務室に弟の暁月翔あかつきかけるが入ってきた。


「とにかく会議室行こうぜ、皆んなを待たせてるんだから」

「分かった、直ぐに行く」


 翠は翠で、クランマスターの仕事をこなす。

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