神は経済紙を見ない

@asashinjam

10年ぶりの起床

「和田君、 少し良いかね?」

「教授? 如何しました?」


昼食時に自身が勤めている長宮医療センターにて

新人医師の和田 卓が教授の飯田に呼び止められる。


「私が抱えている患者達居るだろ?」

「あぁ、 別棟の昏睡患者達ですね、 それが?」

「一人目を覚ましたんだ」

「それはおめでとうございます教授」

「おめでとうございます?」

「彼等の治療は教授の長年の夢だったのでは?」

「私の研究の甲斐なく普通に起き上がったんだよ」

「それは・・・まぁ・・・」

閑話休題それは別に良い、 実は起きた人が錯乱していてね

ちょっと話してきてくれないか?」

「私がですか?」

「あぁ、 君の学友だったんだろう?」

「学友・・・」


少し考えこむ和田。


「そういえばそうでしたね」

「覚えていなかったのか?」

「当時はスレた子供だったので

あまりクラスメイトと関わり合いにならなかったんですよ

確か・・・卒業旅行? でしたっけ?

あいつ等が旅行に行ったときも理由を付けてバックレて難を逃れました」

「卒業旅行を? 君、 意外とヤンチャしてるねぇ・・・」

「行き先がショボかったんですよ、 確か・・・・・

どこかの遊園地だったような気がします、 東西二大以外の」

「そりゃあショボいな、 とりあえず一旦話してくれないか?

少しだけで良いから、 ついでに見張っててくれ

ちょっと興奮しているみたいだから」

「はぁ・・・」


何だかんだ言って、 見張りが欲しいだけだな

と感じながら。

昼飯なのに仕事ふっかけやがって

と思いながら。

和田は別棟に向かった。


長宮医療センター別棟。

ここは様々な患者達の治験等の最先端医療の試験場の役割も持っている。

人間を実験台モルモットにしているように聞こえるが

ちゃんと国の認可を取っている、 当然死のリスク等有る筈が無い。


その中に昏睡患者達も居るのだ。


別棟の警備員達には既に話は通っている様ですんなり通された。


「・・・・・?」


警備員に連れられる和田は違和感を感じた。


「診察室通り過ぎてますよ?」

「いえ、 患者は診察室ではありません」

「じゃあ病室?」

「いえ、 食堂です」

「食堂? 別棟に態々食堂作ってるんですか?」

「えぇ、 機密も多いので別棟勤務は基本的には別棟だけで仕事しています」

「教授は本棟にも来てますけどね」

「教授は多忙ですので・・・」

「そうですか、 しかし食堂と言う事はもう御飯を食べられるんですか?

昏睡から目覚めたからてっきり暫くは流動食かと」

「いえ、 食事をしているのではないのです」

「?」

「実は患者は立て籠もっていまして・・・」

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