精霊樹の魔法使い。はるかな時への旅路
北の山さん
第1話、お約束の始まり
沢山の人間が倒れている。
手にある武器一つで欲望を満たそうとする男達、いわゆる盗賊の集団である。
「ノロ・・いくら何でも治安が悪すぎ。これで3回目」
既に息を引き取っている賊達を見下ろすのは、見た目が十歳ほどの子供である。
腰まで有る長い黒髪と黒い瞳を持った日本人だ。
見渡す限りの草と木の風景には場違いな黒いフリフリのドレスを身に纏っている。
そして、ノロと呼ばれたのは白い子猫。
こちらも人里はなれた場所に居るだけで異常な存在だ。
街から一歩離れれば そこは弱肉強食の世界。
小さな動物など身を隠さなければ野獣や魔物のエサである。
まして、目立つ白いネコなど「 食ってくれ」と宣伝しているようなものだ。
ここは、サラスティア王国とクラックス合衆国の国境近く。
両国を行き交う行商の馬車が利用する正規の街道だ。
「そりゃあね、ハルカみたいな子供が1人でこんなところ歩いてたら、君を見つけた山賊や盗賊はもれなく100パーセント釣れるだろうニャ」
「つまり、街に着くまで死体の道・・嫌だよね」
「とか言いながら・・お金を抜き取るのが手馴れてきたニャ」
「盗賊はお金を落とす、異世界の・・・お約束」フフン
「そんな約束 聞いた事無いにゃ」
ネコはとある理由で人の言葉が話せる。
ハルカと呼ばれた子供は 抜き取った袋から硬貨だけを取り出し亜空間に入れていった。
白猫ノロはその光景を複雑な顔で見詰めている。
「終わった。ノロ・・・来ないなら置いて行く」
子供と子猫の旅、本来なら早々に命が無くなるか、あるいは賊に捕まって奴隷として売り飛ばされるはずである。
それが無事なのは ここが魔法が使える異世界だからだ。
非力な女子供でも 力自慢の男達をなぎ倒せる不思議な力。
だがしかし、 それが可能なほどの強い魔力を持つ者は大変に希少だった。
「のう・・ハルカや」
「肩の上に乗るな・・・・重い」
「それよりの、アレ食べたいのじゃ。一切れでいいにゃ」
「やだ・・・・肩の上でスルメ食べると臭い」
「そろそろ昼時だし、良いではないか」
ネコゆえなのか、ノロはスルメに目が無い。こうなると かなりしつこくて煩い。
ハルカは色々と諦めたのか、子猫を伴って近くにある木陰で一休みする事にした。
そこは 短い草が芝生のように生えていて
少し前に誰かが休んでいたのだろう。
消して間もないであろう焚き火の後がある。
見ると木には色鮮やかな果実が沢山実っている。
赤からオレンジに変わるグラデーションという色合いで美味しそうだが、魔法で鑑定すると ほんの少し毒を含んでいた。
命に関わる事は無いが腹痛くらいは覚悟しなくてはならない。
食べごろの実が魔法によって引き寄せられる。
ハルカは 二つの実に「浄化」の魔法をかけて解毒すると 一つを亜空間倉庫に入れ、ついでにスルメの入った袋を取り出した。
「はい、スルメ。食べるのに時間掛かるから 今はこれだけ」
「おお、魂をゆさぶる芳しい匂いにゃ」
ノロは皿の上に乗せてもらったスルメを時間をかけてカミカミする。
口の中で租借するなんて出来ないため、かじっては休み またかじりだす。
当然
よく見ると、手が届きそうな高さにある木の実がもぎ取られた跡が沢山有る。
不思議では無い。この果実を見たら誰でも手が出るだろう。
しかし それが必ずしも人間とは限らないこの世界だ。
この実が好きな野性の動物かもしれない。
この世界の動物たちは巨大だ。
この程度の高さにある木の実は楽に取る事だろう。
魔物が徘徊するような世界で生き延びて来た獣たちは並みの強さでは無い。
ゆえに 人間が肉を獲ようとするなら 相手がウサギであろうと鳥であろうと狩るのは命がけである。
と言うか 人間がエサとなる確率のほうがはるかに高い。
手に入れた果実はグレープフルーツよりも大きい。
子供のハルカにとっては巨大である。
小さなナイフを使って一部を切り取って器用に食べていた。
味は地球のくだものには無いものなので例えようが無いが それゆえに新しい美味しさだ。
思いがけない果実にめぐり合う事が出来て大満足のハルカである。
ノロが駄々をこねて休憩したおかげであるが、調子に乗るので言葉には出さない。
「さぁ、行こうか。ノロ」
曰く有りげな1人と一匹は戦火を逃れ、クラックス合衆国の町を目指していた。
しかし、小さな子供の足取りである、たどり着くまでには まだ何日も掛かる事だろう。
世界地図の上では取るに足りない広さの日本の国土ですら、交通機関が無ければ旅行は命がけだ。
北海道から東京に行くだけでも人生をかけた大旅行になってしまう。
実際、江戸時代まで日本での旅というのはそうだったらしい。
まして、魔物や盗賊が実在し 地図すら怪しい この世界では隣の国へ行くだけでも 果てしない大冒険と同じなのだ。
発展していない世界と言うのは 夢が有るように見えて実は夢を見ることすら許されない大変な世の中なのである。
テクテク テクテク テクテク テクテク
スマホも音楽も景色の変化も無い街道を 子供の進行速度でひたすら歩く。
そんな時に限って獣も襲っては来ない。
「たいくつ・・」
別に急ぐ旅では無いがあまりにも変化が無い時間は より長く感じられてついついフラグになるような言葉が出てしまう。
「ハルカ‼、誰かが戦っているみたいにゃ。あそこの道が曲がって木々に隠れている先から聞こえる。馬車が待ち伏せでもされたんじゃろ」
「あー・・。また盗賊?」
「元気出すニャ、行商の馬車なら 助ければ乗せてもらえるかも知れないにゃ」
「理解した」
がぜん気合が入ったハルカが走り出す。
3台の馬車が居た。
だが、どう見ても商人の馬車には見えない。
そして、お約束通り盗賊に襲撃されていた。
「ひゃーははは。こいつら見た目だけだ。弱っちぃ、へなちょこな騎士だぜ。
早いとこぶっ殺して中のお楽しみをいただこうぜ」
盗賊が言う通りだ。
騎士は数こそ多いが剣を構えた姿が全員内股の逃げ腰で強そうには見えない。
それに対してジリジリと獲物を追い詰める盗賊。
恐れているのか騎士達は顔いっぱいに脂汗まで流している。
「なにあれ・・」
「騎士の質もここまで落ちているとはのぅ」
こっそり戦いを覗いていたハルカとノロは 下手な芝居でも見ているような気分になっていた。
そして、無言で打ち合わせでもしたように この場には係わらない事にした。
立ち去るべく後ろを振り返ると・・。
ハルカを捕まえようと後ろから忍び寄っていた賊と目が合った。
「ちっ、気付かれたか。死にたく無かったら大人しくしろや」
「くっ!、チョウネンテン」
「あん?。何を・・‼ぐっ、ぎゃあぁぁぁぁ」
とっさの事で驚いたためハルカは失敗した。
本当なら音も立てずに殺すべきだった。
あわてて相手を苦しめるタイプの魔法を使ってしまったのだ。
お腹の中の
魔法をかけられた盗賊は もの凄い苦しみの絶叫をあげてのた打ち回った。
当然、馬車を襲っていた賊達にもハルカの存在が知られてしまった。
こうなっては逃げようが無い。
「はぁ・・・」
ハルカは観念しため息をつくと、てくてくと戦っている男達に近寄って行く。
大人でも身が竦む戦いの場に小さな子供が当たり前のように歩いてくる。
盗賊も騎士達も思わず停戦して その姿を見詰めてしまっていた。
少女は盗族達に人差し指を突きつけ、怪しい発音で一言呟く。
「シシンケイセツダン」
その場の誰も気が付かなかった、
それが どれ程恐ろしい魔法の宣言であるのかを。
「あぁ?。なんだこりゃぁ!」
「何しやがった、何も見えねえ」
「くあっ、いきなり夜になりやがった、どうなってやがる」
「うあああ、目が目がぁぁ」
「目が痛ぇえええ」
最初は自分達に何が起こったのか分からなかった盗族達だが、次の瞬間には目の裏に強烈な痛みを感じてのた打ち回った。
「視神経 切断」要するにハルカは眼球の裏にある視覚情報を伝える為の神経を魔法で切断したのだ。
当然彼らはその瞬間から盲目となってしまう。
戦いの最中、これほど致命的な状態はそう無いであろう。
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以前なろうで投稿した作品です。
今まで作り出した中で気に入っている作品なのでこちらに修正加筆したものを公開します。新しく読まれる方は是非こちらの方でお楽しみください。
なろうに公開した方も一緒に修正していく予定です。
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精霊樹の魔法使い。はるかな時への旅路 北の山さん @ofsfye
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