17.錬金釜

 17.

「まずは五大魔法全てを極めて錬金釜を作るところからだな」

「錬金釜って、普通に大きな鍋じゃダメなんですか?」

「錬金釜はただの釜じゃない。五大魔法全てを使用して作成した特殊な道具だ。強力な力と繊細な調整が必要となってくる上に複数人で作成することが出来ない。つまり五大魔法全てを扱える人間が魔力を高めるか、強い魔力を溜めた魔石を属性ごとに複数用意する必要がある。我が封印される前は後者が主流だったが、自然物には限度がある。そこが尽きたために錬金術が滅びたなんて言われているのだろう」

「五大魔法全てを使える人は少ないですからね」


 魔法適性を持っていても使えるのは二属性までがほとんどだ。

 貴族の家で三属性持ちが産まれたとなればお祭り状態になる。


 五属性持ちなら平民だってあっという間に王宮お抱えになれる。


 といっても全属性を使えても使いこなせなければ意味がない。


 そもそも五属性全てを使える者は珍しいので、指導できる人がいない。


 幼少期に使い方を習った際、お祖父様が五人の先生を呼んでくれたが、どれも初歩止まり。


 それから発動・使用どちらもできるが、率先して使おうとは思わないレベルで止まっている。


 シルヴェスター家は魔法よりも武術に重きを置いているので、使えなくとも問題なかったのだ。


 その状態に前世で培った知識と想像力を掛け合わせた結果が、ルクスさんの鱗を焦がすに至ったーーと。


 適性がありすぎるというのも良し悪しである。


 ゲームのウェスパルはどうしてたんだろう?


「そうと決まればいつまでも引きこもっていられるか! 芋のためだ、一刻も早く錬金釜を完成させるぞ!」


 強力な力はともかく、繊細な調整が必要という点に不安を感じる。


 だが錬金術を習得できればアイテムバッグも夢じゃない。


 本当に出来れば、だが。


 メラメラと燃えるルクスさんにわざわざ水を差すようなことを言う必要はないだろう。


 錬金術云々は置いておくにしても、魔法の練習はしなくてはならない。


 闇落ち回避に繋がってるかもしれないし、錬金術はそのついで。出来たらいいな〜程度でいいかな。


 考え込んでいると不機嫌そうな声が背中を押す。


「何をモタモタしている! 領主に外に行くと伝えてこい」

「はいは〜い」


 ここで勝手に出て行ったりせずにお父様の許可を取ってこいという辺り、ルクスさんってお人好しだよな〜。


 暇だ暇だと言いつつ、一ヶ月ほど引きこもりに付き合ってくれたし。


 早く他の人にも分かってもらえるといいんだけど……。



「二人分の芋と茶をもらうのも忘れるなよ」

「え、屋敷の裏でするんじゃないんですか?」


 ドアノブにかけていた手を外して振り向けば、彼は呆れた顔だ。


「いちいち騒がれたら練習にならんだろ。洞窟まで行くぞ。あそこなら領主も文句ないだろう」

「確かにあそこなら誰も来ませんね! ルクスさん、頭いい」

「芋を献上してもよいのだぞ」


 尻尾でペシペシと床を叩きながら「丸干し芋な」とちゃっかり種類の指定までしてくる。


「はいはい。じゃあちょっとお父様の許可取ってくるので、そこで待っててください」

「ついでに王都に持っていった本がいつ頃届くのかも聞いてこい」

「そういえば届きませんね。もう入学式は過ぎてるはずなのに……。王子からの手紙もあれきり来ないし。流通が遅れてるのかな?」


 入学式は一週間前。

 入学試験となるとそれよりも前になる。


 けれど一向に教本が送られてくる気配がない。


 他の本をねだることなく待っていたルクスさんもそろそろ待ちきれなくなっていたらしい。


 睡眠時間も人間より少ないので、私よりも暇度合いが高いのだろう。


 何度も同じ本を読み返しているようだった。


 まだ時間がかかるようだったら、物置を漁ってみるか。


「ああ、それと領主が何か言い出す前に我の名前を出せ」

「? わかりました」


 お父様はまだルクスさんを警戒視しているし、逆効果な気はする。


 だがルクスさんは芋と牛乳以外に関してはわりとまともだ。

 何か思惑があってのことだろう。


 ルクスさんを残して部屋を出る。


 そのままお父様の書斎を目指して歩けば、すれ違う使用人は一様に肩をビクッと震わせた。


 そしてルクスさんがいないと分かるとホッと胸をなで下ろす。


 一ヶ月が経ったがルクスさんに慣れたのはごく一部の使用人だけだ。


「あれ、お嬢様がルクス様と一緒じゃないなんて珍しいですね」

「部屋にいるわ」

「じゃあ今日はおやつ取りに来ないんですか?」


 そう、主にキッチン周りの人達が。

 毎日毎日芋やら牛乳の催促に行くので嫌でも慣れたというべきか。


 ルクスさんとキッチンの外で会ってもいいように、彼らは揃って干し芋を携帯するようになった。


 今も彼のポケットからは干し芋の入った袋が覗いている。

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