16.刺激された芋好き魂
それにウェスパルがステータスを下げたのもバランスを取るためとの考え方も……。
いや、知っていたらランダムと言わずに光の魔法をピンポイントに下げるか。
うーむと腕を組んで考えこめば、おでこをパチンと叩かれる。
「いたっ」
「お前の場合、光闇以前の問題だ」
「どうすれば上手くできますかね〜。素質はあると思うんですけど」
調整は下手だが、マンガを再現するだけの魔法を使えるだけの力はあるのだ。
上手く扱えば広大な芋畑を耕すのも一瞬で終わりそうだ。
水撒きも一発。空飛ぶ絨毯だって再現可能かもしれない。
ファンタジー世界には可能性が無限大だ。
「比較的簡単な水魔法か土魔法の訓練から始めたらどうだ?」
「土魔法といえばゴーレムですよね!」
ゲームではよくなんたらの間や宝物を守っていたりする。
防御力は高いし、数ターンに一度大きな魔法打ってきたりするしで、難関の一つとして扱われていることも多い。
シルヴェスター領に神殿はないが、夜中の警戒に役立ってくれるかもしれない。
何より私はリアルで動くゴーレムを見てみたい!
興奮を抑えられず、ブンブンと手を振って『ゴーレムはいいですよね!』と熱意を伝える。だがルクスさんはロマン語りを一刀両断した。
「土魔法を極めても、魔核がないと動かんぞ」
「魔核?」
「人間の心臓のようなものだ」
「魔核ってどうやって作るんですか?」
「錬金術だ」
「錬金術ってもう滅びてるじゃないですか!」
「ファンタジーでお馴染みのホムンクルスやアイテムバッグだけじゃなくて、ゴーレムまでダメだなんて……。夢がなさすぎる」
ファンタジーにも色々ある。錬金術がない世界だってある。
そんなことは分かっている。
分かっていても、初めからないのと少し前まであったのとでは落胆度合いがまるで違う。
確かに乙女ゲームにはどれも出てこなかった。
けど乙女ゲームだから、恋愛メインだから出てこなかったのかなって少しは希望を持っていた。
そして教本を見て絶望した。
魔法があるだけで満足すべきなのかな〜。
服の裾を指先でいじりながら「錬金術やりたかったなぁ」と零す。
「錬金術は滅びてはおらんぞ」
「いやいや教本にも書かれていたじゃないですか。ルクスさんも見たでしょ? 三百年前にいた錬金術師で最後だって。シルヴェスター領の芋小屋だって錬金術師の作ったアイテムが壊れれば機能しなくなるから、色々と保存方法を編み出しているんですよ」
「芋小屋?」
「シルヴェスターは甘藷しか育たないので、秋に収穫したものを通年食べられるように専用の小屋に保管してあるんです。アイテムの仕組みはよくわかりませんが、多分空調管理とかじゃないですかね。あの中は結構寒いんですよ」
お父様がたった一晩で陛下と連絡が取れたのも、錬金術師の残した通信アイテムのおかげだろう。
だが通信アイテムも芋小屋のアイテムも永久ではない。
壊れたらそれっきりなのだ。
錬金術で作り出されたアイテムは魔法の何段も上を行く。
錬金術以外では再現が出来ないのだ。
けれどその錬金術は滅びてしまった。
今ある分が壊れればまたなかった頃の生活に戻るしかないのだ。だからそのために今から色々と備えている。
特に力をいれているのは乾燥芋。
前世のようなフリーズドライ技術はないが、賞味期限がものすごく長い。半年以上持つ。
なんでも魔法を使う際に一工夫を施しているのだとか。
だが普通に干したものと風魔法を使ったものとでは食感や味に差が出てしまう。
そこの改良が今後の課題だとお父様は熱く語っていた。
芋はシルヴェスターにとって貴重な食料だ。
私も何事もなく学園を卒業することができれば、こちらに力を入れることになるのだろう。
「アイテムが壊れれば芋が食えなくなるのか?」
「収穫時期の秋から春の初めくらいまでならギリギリ食べられると思いますが、夏場は難しいでしょうね」
「ウェスパル、錬金術を身につけろ」
「いやだから錬金術は滅びて」
「滅びておらんと言っておるだろう! なに、我に任せておけば問題ない」
ルクスさんは胸を張る。
だが彼が目覚めたのは最近である。
封印される前にいた存在が消えてしまったことをまだ受け入れられていないのかもしれない。
人間が数百年かけて出した結論が今更ひっくり返るとは思えないが、どうせ暇なのだ。
なによりルクスさんは芋が関わるとかなりしつこいことをこの数週間ほどで思い知らされた。
芋好き魂に火をつけてしまったのは私だし、飽きるまで付き合うしかあるまい。
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