13.本は大事に使いましょう

「ところで聞きたいんだが」

「なんでしょう」

「毛皮に置かれたもの以外に本はないのか?」

「そこにあるのは私の使い終わった教本なので、今使っているのは本棚に入ってますよ」


 さすがの私も今使っているものは重しにしたりしない。

 あれらは全て使用済みで、近々物置行きになる予定のものだった。


 ちなみに私の教本は全部お兄様のお下がりである。

 王都のご令嬢たちが言っていたような『田舎貴族には本は高い』というのは関係ない。


 後で私が使うと分かればお兄様が綺麗に使うからである。


 実際私が使うと知ってから、兄は教本のページを破ることを止めた。


 破るのは苛立ちを向けて〜なんて理由ではなく、移動中や少しの時間でも勉強するため。

 わざわざ単語帳やノートを作ったりはしないが、破った後もキッチリ保管はしていた。


 その方法で兄の成績は良くなったし、公爵家送りになることはなくなった。


 だがさすがにこの方法を学園でさせるわけにはいかない。


 困った末に、お父様が『その本は後でウェスパルも使うから』と言い聞かせたのである。


 記憶を取り戻す前も今もお下がりに不満はない。

 五歳差があるといっても、前世のように内容が大きく変わるわけでもない。

 変わったら変わったで、お祖父様が新しい教材を贈ってくれるので不便もない。


 浮いたお金は何かに使えばいい。

 少し癖のついた教本を使うことで何かしらを得ることが出来るのなら、そちらを選ぶ派なのだ。



「あれだけか。もっと今の時代の情報が欲しいのだが」

「あとはお兄様が入学時テスト対策に持っていったものが、来月には送ってもらえるかと」


 入学時テストは主に共通授業のクラス分けに使用される。

 といっても上級貴族を一番下のクラスに入れるわけにもいかないので、多少は調整も入るようだが。


 他にも魔力検査や体力測定なんてものもある。

 魔法適性があっても魔力が弱かったりすると、二年生以降で選択可能な授業に参加できなくなる。


 さすがにこちらは危険なので忖度はない。

 入学時の記録が低くても希望する場合は、一年生の座学や特別演習で一定以上の記録を出す必要がある。



 お兄様はどれも心配ないはずなのだが、学園内でサボるかもしれん! 今から叩き込まねば! とお祖父様がやる気になってしまった。

 今頃ビシビシと鍛えられていることだろう。


 そんなわけで教材もお兄様と一緒に王都に残っているのだ。


「届いたら私の部屋に運んでもらいましょう」

「うむ」

「ところで、そこの本はもう読み終わっちゃったんですか?」

「お前がなかなか起きぬものだったからな」


 十数冊はある本を拾い上げながら、ひえっと声を漏らす。


 どれも高校の教科書より分厚いのに……。

 ドラゴンさんは速読も身につけているのだろうか。


「いつもは時間になると使用人が起こしに来てくれるんですよ」

「来たことには来たが、隙間から覗いて帰っていったぞ」

「あー、ドラゴンさんが怖かったのかな。明日からは遠慮なく起こしてください」

「そうさせてもらう」


 本を机の上に戻せば、ドラゴンさんは私の胸元へと飛んでくる。すっかり私の腕の中が定位置になったようだ。


 腹減ったとぼやくドラゴンさんを抱えてリビングへと向かう。


 朝ごはんが残っているかは怪しいが、昼ご飯はあるだろう。

 なかったらふかし芋を作ってもらえばいい。


 誰もいないと思っていたリビングに着くと、お父様が席についていた。食事はない。手を組みながら深いため息を吐いている。


 一晩明けて封印が解けた理由が〜とか言いださないかと怖くなる。

 だが怯えていては食事を食べられない。


「おはようございます」

 おずおずとリビングに入れば「ウェスパル、話がある。座りなさい」と声をかけられる。


「……はい」

 バレたか。腹を据えて椅子に腰かければ、胸元から「メシ」と機嫌の悪い声が聞こえる。


「あとで」

「なっ!」

「食事なら今、二人分用意してもらっている。来るまで話をさせてほしい」

「ならいい」

「それにこれはルシファー、貴殿にも関係があることだ」

「ドラゴンさんにも?」

「聞こうじゃないか」


 ということは封印を解いたのが私だってバレてない?


 ボロは出すまいと背中をピンと伸ばした。

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