11.これもまた運命

「ああそっか。言ってませんでしたね。私、元々異世界人で、最近前世の記憶を取り戻したんです。邪神が、とか、闇の力が、っていうのはそっちの世界で得た知識なんですよ」

「は?」


 軽く聞こえるようにヘラヘラと笑うと、彼は分かりやすいほどに驚いた。

 目がクリンとしてとても可愛らしい。


 いきなり前世がどうのなんて言われれば信じられないのも当然だ。

 私だって胡散臭いなと思う。けれどこの先、彼の協力を仰ぐとすれば信頼を得ることが最優先となる。


 芋と牛乳で釣れるのは本当に始めだけ。

 その先、乙女ゲームの舞台まで協力してもらうには、胡散臭くても全てを打ち明ける他ない。


 疑わしげな目を向けるドラゴンさんに、私は乙女ゲームについて話すことにした。


「この世界は私の世界ではとある物語として書かれていたものの、数年前の世界なんです。実際、私が見た物語が起こるとは限りません。分岐する地点によって未来も変わりますし。その中のいくつかに私の闇落ちと邪神復活がありました」

「到底信じられる話ではない」

「まぁ怪しいですよね。私もこの知識が事実だと証明できるようなものは持ってませんし、初めから信じてもらえるとも思ってません。ただ協力してほしいっていうのに、一番大事な情報を隠しておくのはフェアじゃないかなって」

「怪しさで言えば、邪神を封印している洞窟の前で一心不乱に芋食っている時点でかなり怪しかったがな」

「その怪しい人間の手から芋食べたのはドラゴンさんですけどね。渡しておいてなんですけど、ドラゴンの胃液でも溶かせないようなヤバい薬でも入っていたらどうするつもりだったんですか?」


 この世界にそんな劇薬が存在するのかは知らないけど、ここはファンタジー。それも全種族が神になれる世界である。


 私が今まで生きてきた世界とは常識からしてまるで違う。

 人間には害はないが、ドラゴンに効く毒を作れる者がいてもおかしくはない。


「眠り続けるのにももう飽きた。死ぬならそういう運命だったということだろう。ただ受け入れるだけだ」


 あまりにも投げやりすぎる。

 運命なら受け入れるというのならば、先ほどの警戒は一体なんだったのか。


 自分が死ぬのには興味はないけど邪神になるのは困る、といったところだろうか。だがそれならゲームの中のルシファーはなぜ再び神になったのか。



 ウェスパルが闇の力でルシファーを操っていた?

 だが神を操れるような能力を持っているのなら、主人公のステータス下げて妨害なんてチマチマしたことはしなくていいと思うのだが……。


 首を捻ったところで、やはり分からない。

 圧倒的に情報量が足りていない。さすがは考察勢が揃っても謎が解けなかった存在である。


 だが何も進歩がなかった訳ではない。


「私に出会ったのも運命だということで受け入れて協力してください。ちゃんと芋も付けますから」


 運命を信じるのなら、前世の知識を持つ私と出会ったのもまた運命。


 運命を信じる派、もとい押せば流されてくれると分かった今、変人だと思われようが押して押して押しまくるのみである。


 ずずいと顔を寄せれば、彼は小さな溜め息を吐いた。


「飽きるまで、な」

「ありがとうございます! あ、そうだ。ここに住むなら寝床の準備をしないと。ベッドの基礎部分何がいいとか希望ありますか? 今日揃えるのは難しくてもなるべく希望に沿う物を用意しますので遠慮なくいってくださいね」

「床で勝手に寝るからいい」

「そうですか? ならウルフの毛皮敷くのでちょっと待ってくださいね」


 確か去年の誕生日にお兄様からもらったものがクローゼットの肥やしになっていたはず……。


 ゴソゴソと漁れば、一年ちょっとぶりにホワイトウルフの毛皮が姿を現してくれた。


 記憶を取り戻す前の私の好みではなかったのでしまい込んだままにしていたが、お兄様の処理が上手いので状態が良い。


 伸ばしながら床に敷くが、少し痕が残ってしまっている。

 四隅が丸まらないように、適当な本をボンボンと置いていく。


「さぁどうぞ! あ、毛布は」

「いらん」

「そうですか? 寒かったら言ってくださいね」

「お前は我を何だと思っているんだ」

「ドラゴンですけど?」

「……深くは突っ込むまい」


 ドラゴンさんはそう呟くと、毛皮の上で丸くなった。


 私のことを変だと思っているのはいい。

 だが彼がちゃっかり私の食べかけ芋を寝床に持って行っているのは私は見逃していない。


 食い意地張っているのか、よほどお腹が空いているのか。


 ファンタジーの生き物であるドラゴンの生態もまた、ウェスパルという少女同様によく分からないのである。

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