25:※最強魔道士ツカサの憂鬱


 私は退屈だった。


 私には魔道の才能と高い魔力があった。

 この世界は魔法と魔術と魔力がすべて。

 何をするにもイージーだった。


 ただ一つを除いて。



 男よ。



 素敵な旦那様よ。



 いや、一旦彼氏でいいわよ。



 もういっそお友達からでもいいです。



 私が求めるのは【強さ】。

 それだけは譲れない。

 強引に男の人に屈服させられたいまである。


 強くなり過ぎた私には到底無理な願望であった。

 寄ってくるのは私の外見に釣られた下衆ばかり。

 そんな輩は雷魔法で二度と近づく気持ちが起きない様にしてやる。


 でもね。


 そんな事ばかりしていて気がつけば24歳。



 行き遅れた!



 この世界、速い子は15で結婚するのよ?

 24歳の独身で最強女?

 自分で言うのもなんだけど大地雷よね。


 でも……もういいの。


 私は可愛い妹達を愛でる事が生きがい。

 美しい弟子達に甘やかされて生きるのが幸せ。

 そう、それでいいのよ……




 いや、よくねえええええええええ!




 ※この世界での一般的な設定上の価値観の話です。あとツカサは特殊な訓練を受けています。



 ー・-



 発狂寸前ギリギリライフ1で今日も生きる。

 そんな私に変な報告が上がってきた。


「ギルドで決闘騒ぎ?」

「はい、例によってガイアと副ギルド長が関与していました」


 私の1番弟子のテレサちゃんが報告してくれている。

 今日もテレサちゃんはクールで美しいわね!


 それにしても副ギルド長とガイアの2人は本当に度し難いわね。


 これまでの被害者は全員アフターフォローを入れておいた。

 情けない事にこの2人の悪行に最近まで気づかなかった。

 多忙すぎて、ギルドに不在が多かったせいよね……反省。


 動機はわかっている。

 ギルドの評価を自分の手柄で維持・向上した事にする為。

 事もあろうに私のギルドで、そんな不正を。


 それもこれも原因は馬鹿げたギルドの評価基準にある。


 ギルド拠点の格付けは所属する冒険者の平均魔力で決まるのだ。

 平均って……冒険者が多ければ多いほど不利じゃないの。

 誰が決めたの? 馬鹿なの?

 沢山の冒険者を抱えたギルドが評価されない仕組みとか終わってる。


 今回の件とは無関係にこの馬鹿な評価基準をつぶす為に私は動いていた。

 それがようやく廃止・改定される所まできたっていうのに。

 2人の悪事の証拠も集まった事だし罰はしっかり与えないとね。

 何人もの冒険者の志を不本意な形で潰したのだから。


「2人は計画通り処して」

「承知しました。……ちなみにガイアは敗北して重症を負っています」

「ガイアが負けた? 確かあいつらの手口は魔力の弱い子狙いなのよね?」

「はい、今回狙われた新人の魔力は0でした」

「魔力……0? そんな人間居るの……?」

「はい、私も計測する所を確認しました」

「テレサちゃんが見たなら信じるけど……どうやって勝ったの?」

「念の為、記録用魔道具で決闘を録画してあります」

「もう♪ テレサちゃんてば仕事が出来すぎ♪」


 テレサちゃんは金髪碧眼のクールなエルフで魔法の一番弟子。

 そんなテレサちゃんを私は褒めながら頭を撫でると頬を赤くしてる!

 可愛すぎて悶え死ぬ!


 って私、男がずっと居ないせいかしら、美少女に悶えてる……我ながらキツイわね。



 ー・



「な、何よこれ!」

「私も驚きました」


 映像を見て唖然とした。

 魔力0の青年は炎の槍を素手で掴んでいる!

 しかも投げ返した槍がガイアの足に刺さった!


 なによ、これ! 興奮するじゃない!


 しかも火炎を受け続けても涼しい顔!

 防御魔法も使ってない!

 興奮しすぎてアレが私は大変な事になった。


「まだあります」

「え、まだあるの?」


 もう興奮で足腰ガッタガタよ!

 って、え? スライムちゃんが青年の手に!

 あ! ア? あー!


 言葉にならない。

 この青年は私の知識の外側にいる。

 説明のつかない事が多すぎる。


「今ターニャさんが青年の対応中ですが」

「呼んで!」

「承知しました、念の為事前にターニャさんにはお願いしてあります」


 テレサちゃん仕事出来すぎる件。


 とりあえず、何がどうなっているのか全部知りたい!

 まずは、関わる口実としてタバサちゃんの弟子にしよう。

 魔力0でも魔術なら教えられる事も沢山あるわよね。

 タバサちゃんは男の子に厳しいから変な間違いが起きる心配もないわね!



 ー・ー



 どうしよう……

 話を聞いてみると衝撃すぎた。

 思ってたよりずっとヤバい子だった……

 そして話を聞いてる途中からずっと考えていた。


 何がなんでも私のモノにしたい……


 どうしてもそればかり考えてしまう……

 これが恋?

 さっきからドキドキが止まらないし絶対そうよね!

 って24歳にして初恋かよ!

 我ながら切ない人生ね……


 これから青春の遅れを取り戻すのよ! ツカサ!

 自らを鼓舞してギリギリライフ1で今日も耐える。



 タバサちゃんは案の定の塩の対応で変な心配はなさそうね。


 っ! ケイオス君が私の方を見てるっ!

 ヤダ……見つめられると変な気分になるわ……雷出ちゃう……


 ピリッ


 ヤバっ! いつもより多めに雷出ちゃった!

 ってケイオス君平気な顔してる?

 【五つ星】程度なら卒倒する威力のはず……

 本気でヤバいわね……この子。


「やっぱり信じられないわ! 私とも決闘よ!」


 ナイスよ! タバサちゃん!

 衝撃事実を受け止めきれないタバサちゃん。

 ケイオス君と決闘すると言い出した!


「あら、それなら私も!」


 便乗する24歳乙女。



 ー・



「やばいです、服が無くなる」


 私はそのまま見ていたい欲望を抑えて決闘を交代してもらった。

 このまま行くとケイオス君のナニカと一緒に私の本性も出ちゃう。


 ふとタバサちゃんの顔を見る。

 タバサちゃん涙を堪えている……

 さっきの魔術、本気だったから悔しいのね……

 ……お姉ちゃんが代わりに頑張るわ!


 本気でやる! 将来の旦那様でも容赦しないわよ!

 妹の涙に姉は弱いのよ!


 私の最大火力をぶっ放す!

 雷球を10倍チャージ!

 私の魔力1980の10倍で威力19800魔法!


 ドゴゴゴゴゴゴゴォォォォオン!


「はぁ……爆音で耳が痛ぇ」


 凄すぎて腰が砕けそう。

 私の全力19800魔法を食らって耳が痛いだけって。

 魔防いくつだよ!

 絶対に……ケイオス君は私のモノにするわ……絶対に……



 ー・ー



 あれからケイオス君はタバサちゃんの弟子になった。


 ケイオス君は魔術の勉強を熱心にしているみたい。

 タバサちゃんは相変わらず辛辣な言葉ばかりだったので安心した。

 男女が一緒に居ると間違いは付き物なのよ!

 知らんけどそう本で読んだ。


 私の方は以前にも増して雑務に追われていた。

 副ギルド長を例の件で解雇したからかも。

 ガイア達は資格剥奪して2人まとめて強制労働鉱山に送っといた。

 沢山の人の夢を奪ったのだから当然ね。


 後任で副ギルド長をテレサちゃんにしちゃった。

 テレサちゃんは快諾してくれたし、仕事量は目に見えて減った。

 持つべきものは美しくデキる弟子よね。


「ツカサさん! ダンジョンにネームドが現れたそうです! 」

「今日は確かタバサちゃん達が……!」

「そうです! 急がないと!」


 マズい……

 ヒュージレッドオーガ……

 50層以降にしか出ない魔物だけど、ネームドなら通常よりも強いはず。

 さすがにいくらタバサちゃんでも……!


 2人を無事を祈りながら目一杯急いだ。


 そしてダンジョンに着いたと同時に私は愕然とした。








 タバサちゃん、何でメス顔になってんのよ!




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