第38話 大切なお知らせ 前編
<レイの視点>
(アタシって、チョロいなぁ)
最近、よく思う。
特にリツちゃんとじめにいのことになると、かなり
それ程に大事な二人だ。
じめにい。
双子の兄。
ダメダメなところが多いけど、アタシのことが大好きで――
優しい所もあって――
なにより包容力がある。
自慢の兄だ。
リツちゃん。
親友というより家族に近い。
VTuberとして配信するためのロボットを作ってくれた。
それだけじゃなくて、いつも愚痴を聞いてくれたり、慰めてくれたり、本当に親身になってくれた。
いろんな我儘にも付き合ってくれた。
彼女がいなかったら、アタシの幽霊生活はもっと暗かったと思う。
そんな二人が〝幸せ〟だと口にした。
当たり前のように。
(それだけで満足しちゃった……)
だから、アタシはもう消える。
そう、アタシは消えてしまう。
誰に言われなくても、自分が一番理解している。
前兆だってある。
少しずつだけど、体の感覚が無くなってきている。
動くのが少し億劫で、過去のことがどんどんフラッシュバックしてくる。
たまに幻覚が見えるし、本当に危ない状態だろう。
人は死にかけている時、よくわからないことを口にする。
でも完全に『おかしい』とわかる事は言わない。
『寝ぼけているのかな』と思う程度の、ちょっと不思議な言動におさまる。
本人からしたら、目を開けながら夢を見ているような感覚なのかもしれない。
そんな状態が、正気と言えるのだろうか。
(アタシは思えない)
きっとアタシは、すぐに正気でいられなくなる。
そうなったら、ずっと前から準備していた言葉が
(だから、今のうちに皆との別れを済ませないと)
そう考えると、今すぐ泣きたくなってしまう。
別れを告げるのはとてもつらい。
でもアタシは一回
別れを告げられないのは、想像以上に辛い。
そのせいで大事な人が苦しんでしまうのなら
でも今回は違う。
いくらでも言葉を掛けることができる。
お母ちゃんとお父ちゃんにはもう別れは済ませた。
あと少しだ。
あと少し頑張れば、楽になれる。
〝アタシ〟こと〝レイ〟こと〝
◇◆◇◆
リツはタバコを吸いながら、独りで座っている。
目の前にはレイを模したロボットがある。
だけど今は電源を入れているだけで、動く気配もない。
動かすはずの電脳幽霊が、今そこにいないからだ。
リツはタバコの煙をロボットの顔に吹きかけた。
その後、構ってほしい子供みたいな顔をしながら、ロボットの固い指に触れる。
すると――
ピクリ、と指が動いた。
「――――っ!」
リツは驚きながら顔を上げる。
ロボットの顔が動いて、困ったような微笑みを作った。
『リツちゃん。その様子なら、全部知ってるのかな?』
「やっと来ましたか。まったく。もう4本目ですよ」
リツは吸っていたタバコを灰皿に突っ込むと、
顔が全体的に赤い。
目の周りは腫れぼったくなっている。
さっきまで泣いていたのだろう。
その顔を見ていられなくなったレイは、目を伏せる。
『リツちゃん。ごめんね』
「……ボクは怒ってますよ」
『ごめんね。ずっと一緒にいられなくて』
レイが暗い顔で言うと、リツの頬がぷくーっと膨れた。
「そんなことを言ってるんじゃないですよ」
『え、違うの?』
「なんでボクが最初か最後じゃないんですか。中途半端は傷つきますよ」
リツの言動を聞いて、レイは苦笑した。
だけど、表情には少しだけ安心感も混ざっている。
『いつも通りだね。こだわるところじゃないでしょ』
「何を言ってるんですか。こんなにかわいいボクが一番じゃないなんて、おかしいじゃないですよ」
『一番の親友だと思ってるよ』
「それだけじゃ足りないですよ。オンリーワンでナンバーワンじゃないと認めません」
リツの言葉がおかしく感じたのか、レイはクスクスと笑った。
その顔を見たリツの頬が緩んでいく。
『こりゃ、じめにいも大変だなぁ』
「先輩だったら受け入れてくれますよ。細かいところを気にしないところ
『他にもあるでしょ。いろいろ』
リツは少しだけ考えた。
だけど、すぐに頭を横に振る。
「ボクが魅力が感じてるところは、鈍感さだけですよ。ボクが孤児でも、食べ方が汚くても、育ちが悪くても、本気では怒りませんし」
『えー。本当に他に無いの?』
リツはほんのちょっとだけ考えた。
「強いて言うなら、なんだかんだで家事ができて、誰にでも優しくて、一緒にいると落ち着いたり、簡単に死ななそうなところですかね」
『結構あるじゃん』
「本当ですね」
二人はふと、壁越しに隣の部屋を見た。
そこではハジメが待機している。
『とりあえず、じめにいのこと末永くよろしくね』
「それは先輩の頑張り次第ですね」
『本当に厳しいなぁ。まだ先輩って呼んでるし』
「呼び方は
『理系の思考だ。どうせなら、じめにいって呼んでもいいよ?』
レイの提案に、リツは顔をしかめた。
「嫌ですよ。ボクはレイちゃんの代わりじゃないですから」
『体型は近いのに。じめにいが見破れなかったぐらいには』
「そのせいで夜の営みは大変なんですよ。おっぱい星人から矯正するのにどれだけ苦労してるか……」
『うわあ、聞きたくない聞きたくない!』
レイは「イヤイヤ」と言わんばかりに頭を振った。
「盗み見してた人がよく言いますね」
『たしかに』
二人は笑い合った。
楽しそうな笑い方なのに、どこか寂しそうな声音だった。
ひとしきり笑い終わると、お互いの瞳をみつめ合う。
『本当に感謝してる。ロボットの体を作ってくれて、配信環境まで整えてくれて。一緒にいてくれて』
「何言ってるんですか。ボクの方が感謝してますよ」
『うん。一生忘れないでね』
「忘れるわけないじゃないですか。どんなことがあっても忘れませんよ」
『リツちゃんはそう言ってくれるよね。信じてた』
レイはリツの手を、そっと握った。
とても力強くて、リツの顔が少しゆがむ。
『じゃあ。元気で』
「ロボットは残しておきますので、あの世が嫌だったら戻ってきてくださいね」
『あはは、多分無理かなぁ』
それだけ言うと、ロボットの手をへその前に持っていった。
まるで棺桶に入る仏様のように。
そして、口と
「……そこは嘘ついてくださいよ」
すすり泣く声が響く中、レイが入っていたロボットから、なけなしの生気が消えていった。
あとはじめにいと、■■■■だけだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んで頂きありがとうございます!
すみません、少し投稿が遅れました"(-""-)"
ハジメがどう出るのか気になる人は、☆や♡、フォローをよろしくお願いします!
完結まで、あともう少しです。
お付き合い頂ければ幸いです('◇')ゞ
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