第33話 順風満帆だけど、お腹が痛い
ハジメが配信を始めて、1か月が経とうとしている。
仕事があるから毎日配信はできていないものの、基本的に土日の配信を続けている。
もちろん、メタマちゃんの配信に被らない時間帯で、だ。
そして、その事実は
そう、
(いやー。あんな風にバズるとは思わなかったなぁ)
ハジメは最初視聴者がいないから、とメタマちゃんについて永遠に語りながら配信をしていた。
だけど、その配信はアーカイブとして残っていて、偶然
ハジメはその事実に、すぐに気づけなかった。
最初に発見した人物にブロックされていたからだ。
では、なぜブロックされていたのか。
なんと、その人はマッチングアプリで出会った一人目の女性だったのだ。
メタマちゃんに関する怪文書を送ったせいで、ブロックされてしまった相手だ。
(偶然って怖すぎない?)
だけど結果として、ハジメの配信は拡散されていき、メタマちゃん界隈で話題になって、一気に登録者が増えた。
今では1000人を超えている。
(まだVTuberにもなってないのに……)
ハジメは微妙に納得できない表情を浮べながらも、画面に向かって手を振る。
カメラをオンにしていないから、リスナーには姿は見えていないのに。
「じゃー。またなー」
配信を終えて、一息つく。
その後すぐさま、チャンネル登録者数を確認する。
10人程だけど、増えていた。
「おおー。悪くないな」
自然と声が弾んで、頬が緩んでいく。
(会社で働いていると味わえない喜びだな、これは)
会社では個人の成果というものがほとんどない。
数字にはっきり出ることはないし、達成感は分かち合うものだ。
だけど、配信者の成功は、配信者自身にダイレクトに伝わってくる。
(案外こういうのが合ってるかもしれない)
そう考えていると、目の前の画面が切り替わって、メタマちゃんが出てくる。
『じめにい、お疲れー』
「あ、レイ。本当に疲れたよ。変な荒らしがいたし」
思い出すだけで嫌な気分になってきて、ハジメはため息をついた。
連投で『〇〇〇〇最強!!』とコメントし続ける
〇〇〇〇の中身は、全く関係ない配信者の名前だった。
おそらくはその配信者のアンチなのだろう。
『荒らしは有名税みたいなものだよ。どうせすぐにいなくなるから』
「わかってても、つらい」
レイは微笑んだ。
『メタマちゃんからリスナーを寝取ってるんだから、ちゃんと楽しませてよね』
「寝取ってるわけじゃないよ」
『実際アタシの配信に来なくなって、じめにいの配信を見てる人がいるんだよね』
「それは許せないな。そいつは今度説教してやらないといけない」
『やめてやめて。面倒なことになるから!』
レイは苦笑いを浮かべながら、ハジメを必死に止めようとした。
そのやりとりが面白おかしくて、二人は一緒に噴き出してしまう。
楽しそうな声音のまま「なあ、レイ」と語り掛ける。
『なに? じめにい』
「配信って、楽しいな」
『お、じめにいもこっち側になってきたね。流石アタシの兄だ』
また二人は笑いあった。
すると――
ガチャリ、と。
少し不愉快そうに、ドアが開く音が響いた。
部屋に入ってきたのは、リツだ。
隠すことなく、頬をリスみたいに膨らませている。
ただし頬の中に詰まっているのは、ドングリではなく不平不満だろう。
「先輩、いつまでウチで配信をやる気なんですか?」
「だって、ここが一番やりやすいから……」
ハジメは冷や汗を少し書きながら、目を背けた。
「まあ、別にいいですけど。その分仕事でこき使いますから」
「あれ、オレの方が先輩だよな?」
「何を言ってるんですか。先輩は先輩ですけど、もうボクの方が仕事できますから」
遠い目をして、リツの不敵な顔を見つめた。
そして、諦めたように言う。
「……まあいいか。指示される方が楽だし」
「そのプライドの無さ、ボクは嫌いじゃないですよ」
リツはそう言いながら、手に持っていたオタマを振り回した。
「夕飯。一緒に食べますか? せっかくなので」
突然話題が変わった。
こちらが本題だったのだろう。
「そんなの悪いよ。すぐに帰る」
ハジメはそそくさと帰ろうとした。
だけど、レイが呼び止める。
『えー。じめにいも食べてってよ。食べたことないけど、リツちゃんの手料理だよ?』
「いや、なんか嫌な予感がするんだよ。村木の手料理って……」
「失礼なこと言いますね。大丈夫ですよ。何回も味見したんですから。自信しかありません」
『そうだよそうだよ。リツちゃんの手料理は絶対おいしいよ』
女性二人に押されて、ハジメは辟易した。
「なんでこんなに押しが強いんだよ……」
『じめにいが押しに弱いからかな』
「推しに言われたら、言い返せない」
レイに指摘された通り、押しに弱いハジメは「わかったよ」とあっさりと折れた。
「じゃあ、さっさと食べましょうか」
「あ、結構いい匂いがする」
『いいねいいね。アタシは眺めることしかできないけど』
ハジメは素直にご
だけど――
ヘビースモーカーであるリツの舌が正常なはずはなく、ハジメは数日間、胃のムカムカに悩まされるのであった。
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サーフェスGO3くんはタッチが利かなくて、画面にシミが残ってしまったけど、元気です。執筆には使えます
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