第14話 相談と疑問とネコババおばさん
双子の妹からデートのお誘いを受けた日。
午後の休憩時間中。
濃いクマを作ったハジメは、リツに真剣な眼差しを向けていた。
「なあ、付き合ってくれないか?」
「お断りします」
きっぱり断られると、ハジメは情けない顔で
「じゃあ、オレはどうすればいいんだよ!?」
「妹とデートに行くことになったからって、後輩に同行を頼むとか、正気ですか?」
リツはすごく嫌そうな顔をしていた。
顔に皺が出来過ぎて、年老いたブルドッグのようだ。
尚『妹=メタマちゃん』であることも『もう死んでいるはず』ということも伝えていない。
ただ『双子の妹にデートを誘われて、どうしたらいいかわからない』と相談しただけだ。
それでも十分、頭を抱える相談内容である。
一刀両断してくれるだけ、まだ温情があるだろう。
「あと、その日は先約があるんですよ。同居人のワガママに付き合わないといけないんです」
「同居人、いたんだ」
ハジメが意外そうに言うと、リツは目をそらしながら答える。
「ちょっとした腐れ縁ですけどね。あ、言っておくと一応女性です」
「へー。それは同居人も苦労してるだろうな」
「それはどういう意味ですか?」とリツがドスの利いた声を漏らすと
「あ、いや。なんでもないです……」とハジメはお茶を濁した。
(たまにお母ちゃんよりもおっかないんだよな)
戦々恐々しながらハジメが顔を上げると、リツが呆れたように
本当にお母ちゃんみたいだ、と思っていると、リツが話を進める。
「大体、そんなに身構える必要あるんですか?」
「……めちゃくちゃ久しぶりだし、美人だから」
「でも、双子の妹なんですよね? 肉親なら普通に会えばいいんじゃないですか」
「確かにそうなんだけど、関係性がかなり複雑だから……」
「相手が
リツが「ヤレヤレ」と言いたげな顔で告げると、ハジメは小首を傾げる。
(あれ、なんで……?)
だけど、それよりも妹とのデートの相談が大事で、一度棚上げすることにした。
「うーん、いっそのこと断った方がいいのかな? 今の関係が壊れる方が怖い」
「勝手にしてください。決められないなら、コイントスでもして決めればいいじゃないですか」
リツとしては面倒になって適当に言ったのだろう。
だけど、ハジメは「なるほど」と頷いた。
おもむろに財布からコインを取り出したかと思うと――
キン、と。
かん高い音とともに飛翔した500円玉は、天井スレスレまで飛んでいく。
だけど、まったくまっすぐではない。
ハジメはコイン投げに慣れていなくて、あらぬ方向へと飛んでいく。
きれいな放物線を描いてしまったコインは、手が届かないところまで飛んで行ってしまった。
「あら?」
そして運が悪いことに、落ちた先には経理のおばさんがいた。
銭ゲバで有名である。
彼女は、まるでタイムセール時の主婦のような俊敏な動きで、500円玉を拾い上げた。
そして、誰も声を掛ける時間すら与えず、忍者のように姿を消してしまった。
「「えぇ……」」
あまりにも堂に入ったネコババに、リツもハジメも開いた口がふさがらなかった。
もはや文句を言う気力すら湧いてこない。
「あー。ちゃんと考えよう」
予想外に500円を失ったことで、ハジメの頭は冷え切って、冷静になっていた。
不幸中の幸いだろう。
「そうした方がいいですよ」
「苦手なんだけどなぁ、決断」
「それでよく生きてこれましたね」
リツが呆れた顔をすると、ハジメは何故か胸を張った。
「よく言われる」
「なんで、そんな自信ありげな顔なんですか……?」
一旦『結論を先送りにする』という結論が出て、ハジメはリツに対して、さっき感じた疑問を投げかける。
「そういえばさ」
「なんですか?」
「なんで、妹が
不思議そうな顔で訊ねた瞬間、リツの顔は冷汗だらけになった。
「あ、あはは。先輩が前に言ってたじゃないですか」
声が震えていて、かなり挙動不審だ。
ハジメが疑心暗鬼な顔をしていると、リツは急いで立ち上がった。
「ちょっとお手洗い行ってきます!」
文句の一つも言う暇もなく、リツと走り去ってしまった。
(あれ、言った記憶無いんだけどなぁ)
何より、リツの慌てようが不思議だった。
(帰ってきたら問い詰めてやろう)
そう画策したハジメだったのだけど――。
「あ、これをよろしく頼む。今日中にな」
「すまんな。すぐにやってもらわないと、こっちの仕事が進まないんだ」
「おーい。少し会議室に来てくれないか?」
「なあ!? 見たか!? 例の絵師さんのメタマちゃんのファンアート!!!」
「二枝さん、客先からお電話です。何かやらかしました?」
まるでタイミングを見計らったかのように、大量の仕事が舞い込んできてしまった。
ちなみに最後の客先からの電話は、すごくどうでもいい問い合わせだった。
そんな多忙な状況でも、上司とのメタマちゃんトークはしっかりとしていたのだから、同情の余地はないだろう。
そうこうして時間に追われて仕事をしていると、リツに問い詰めることを忘れてしまうのだった。
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すみません
調子が悪い中書いたので、誤字脱字等があれば、コメントなどで教えて頂けると助かります
伏線は露骨なほどいい(持論)
また、続きが気になりましたら、♡や☆を頂けると嬉しいです
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