一枚の光景
星多みん
誰も見れない文章
これは一つの場面だ。
一般的には長々と、もしくは短く時間が過ぎていくのだが、今から書き起こすことは一瞬の風景。それは私の時間が今もそこで止まっているということなのだろうか。
その場面の最初は知らない部屋から始まる。知らない部屋で立っている私の足元に男女の死体があった。二人ともきっと見たことのある人だろう。男性はそう、私の旦那だとおもう。だとしたら女性は親友だろう。顔は切り刻まれたのかどす黒い赤で歪んでいたが、男性は指輪を、女性は腕時計を、両方とも私と同じものを身に着けていた。
そうしたら何故、そんな二人が私の足元で亡くなっているのだろうか。信じたくはないが、真っ先に思い浮かんだのは記憶がないだけで私が殺した事だった。だが、それは早計だったようで、私の身体には液体の感覚がなく、これは返り血がない=犯人ではないということだろう。
いやいや、着替えた可能性があるだろう。勿論、考えた。が、私の周りには綺麗に広がった二人の血だまりがあり、それを飛び越えることも出来なさそうだった。もし超えたとしても部屋内には服を隠せる場所も、それらしき服はなかった。
だとしたら死因はなんなのだろうか。少しの間考えようと思ったが、その前に気になるモノを見つけた。それは近くのスーパーにあるレシートだった。レシートは女性の手の上に軽く握られており、ポリエステルの手袋一つだけが購入されていた。こんな状況じゃなければ、魚でも捌くみたいな平凡な考えが浮かび上がったのだろうが……
私は直ぐに一つの可能性から大雑把なストーリーを考えた。まず、この二人は浮気相手だったのだろう。そして私が邪魔になって殺そうとした。でも、どちらかが思いとどまり、殺し合いをした…… のか?
少しだけの疑念があったが「チク」と秒針が進んだ音のせいで、張り詰めた気持ちが抜けている感覚がした。
いや、これでいい。私は疲れていたのだ。時計の針が次の地点に到着する短い間で思考を巡らせていたのだから、そう納得させて動こうとしたときだった。後ろから「バキ」という木が折れた音を立てて生温い血に塗れた私が倒れた。
一枚の光景 星多みん @hositamin
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