16

 2月1日になった。いよいよ明日は共進学園の入学試験だ。夏からの奈美恵との二人三脚の日々も、明日でその結果が出る。結果がどうであろうと、これまでの頑張りを見せなければ。明日は、自分の未来を決める重要な日だと思って臨まないと。


「おはよー」


 知也は奈美恵の声で目が覚めた。ここ最近はいつもそうだ。麻里子よりも先に起こされる。だけど、とても嬉しい。


「おはよう」

「いよいよ明日だね」


 それを聞くと、知也は緊張する。だが、以前に比べてさほど緊張しなくなった。何度も聞かされているのだから、緊張しなくなってきたようだ。


「うん」


 奈美恵は笑みを浮かべた。いよいよ明日だ。最後のひと踏ん張りだ。頑張ろう。


「頑張らないと」

「そうだね」


 知也は拳を握り締めた。絶対に合格して、みんなに褒めてもらうんだ。そして、自分の未来を切り開くんだ。


「絶対に共進学園に受かるんだ。そしてみんなに褒めてもらうんだ」

「だけど、入学してからも大変だね。今度はもっと厳しい勉強が待っているし、大学受験も待っているし」


 奈美恵はその差の事も考えた。入学してからと言って、怠けていては意味がない。そこから先の大学受験も考えていかないと。


「確かに。今度は大学受験だね」


 知也は思った。その先には大学受験、そして就職もある。そう思うと、戦いはまだ始まったばかりのように思える。まだまだ油断できないとも思えてくる。


「ああ。頑張らなくっちゃ。でも、そうなったら、奈美恵先生、どうなるの?」


 そう聞かれて、奈美恵は戸惑った。自分は幽霊だ。使命を終えたら、どうなるんだろう。何はともあれ、目の前の使命を果たさなければ。


「そういう事、考えないの。いつでも私は知也くんを見守っているから」


 だが、奈美恵は全く言おうとしない。目の前の事を一生懸命頑張ってほしいと思っているようだ。


「本当?」

「うん。きっと見守ってるよ。だから、心配しないでね」


 奈美恵は知也の肩を叩いた。すると、知也は少し元気が出てきた。今日も受験勉強を頑張ろう。今がラストスパートだ。入試までが勝負だ。


「ありがとう」

「さて、雑談はここまでとして、また頑張らないと」

「期待してるわよ」


 知也は部屋を出ようとした。朝食を食べに行くようだ。奈美恵はそんな知也の背中を見て、誇らしげに思っているようだ。自分が育てた子が、こんなにも成長してくれた。家庭教師をやってきて、よかったと思っているようだ。


「お父さん、お母さん、自分の使命を果たせて、やっと天国に行けそうだよ」


 今、どんな生活を送っているんだろう。全くわからないけど、奈美恵を忘れないで生きているんだろうか? 今でも墓参りを欠かさずやっているんだろうか?


 と、知也は何かを感じ、振り向いた。奈美恵が何かを考えているように見えた。


「どうしたの?」

「な、何でもないよ」

「そう・・・」


 知也は部屋を出て、1階に向かった。




 そして、夕方になった。今日は学校が休みという事もあってか、朝から勉強漬けだった。つらいけれど、ここまで受験勉強漬けだった知也には、何にもつらくないようだ。


「あー、疲れたなー」


 知也は腕を伸ばした。もうすぐ夕食だ。夕食を食べて、お風呂に入って、歯を磨いたら再び勉強だ。


「知也ー、ごはんよー」


 麻里子の声が聞こえた。夕食ができたようだ。香りから察するに、カレーのようだ。


「はーい!」


 知也は1階に向かった。ダイニングに近づくたびに、カレーのにおいが強くなっていく。


「今日はカレー?」


 ダイニングに入った知也は、嬉しそうだ。今日大好きなカレーのようだ。


「うん。明日、頑張ってほしいと思って」


 知也の予想通り、今日はカレーのようだ。知也はすぐに席に座った。


「ありがとう。いただきまーす!」


 知也はすぐにカレーを食べ始めた。まさか、カレーが食べられるとは。明日は入試だから、頑張っての意味も込めてカレーにしたんだろう。


「おいしい?」

「うん!」


 今日のカレーはいつもに比べておいしく感じた。麻里子の愛情があるからだろうか? 明日は頑張ってほしいと思っているからだろうか?


「明日、頑張ってね!」

「わかってるって!」


 何度も言われている。知也はうっとうしくなっていた。だが、全く怒ろうとしない。両親のためにも、奈美恵のためにも頑張ろうと思っているようだ。


「知也の実力なら、絶対に合格できると思ってるから!」


 丈二郎は知也の肩を叩いた。知也は気合が入った。


「わかった! 頑張るよ! でも、まだまだ油断できないよ」

「その心構えが大事! 頑張ってね!」

「任せて!」


 丈二郎は知也の頭を撫でた。知也は嬉しくなった。


「やっぱ知也は頼りになるなー」

「ありがとう」


 麻里子は知也に期待している。この子なら、必ず共進学園に合格するはずだ。


「知也、明日、頑張ってね」

「うん!」


 知也はカレーを食べ終えた。しばらくリビングでくつろいでから、お風呂に入って、歯を磨いて、再び勉強だ。


「ごちそうさま」


 知也はリビングに向かった。風呂が沸くまで、ここでくつろごう。




 お風呂と歯磨きから帰ってきた知也は、再び2階に向かった。また受験勉強をするようだ。入試まで、油断できないと思っているようだ。


「また行っちゃった」

「相変わらず頑張ってるね」


 両親は、温かい目で見ている。こんなに頼りになる子になるなんて。きっといい子に育ってくれるだろう。


「この調子で、明日は頑張ってほしいね」

「うん」


 麻里子は、知也の未来に期待していた。どんな会社に就職するかわからない。だけど、いい所で働いてほしいな。そして、誰からも頼れる人になってほしいな。


「この子の将来に期待しないと」

「ああ」


 麻里子は思った。夏休みの前は、どうなるんだろうと思ったが、ここまで成長してくれた。まさかここまで成長するとは、思ってもいなかった。


「やっと本気になってくれて、嬉しかったね」

「うん」


 丈二郎は知也の部屋を見上げた。どうしてここまで成長したんだろう。やはり、受験ともなるとここまで人は成長するものなのかな?

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