僕の家庭教師
口羽龍
1
山崎知也(やまざきともや)は中学校3年生。今日までサッカー部に所属していたが、今日、受験勉強に入るために引退した。夏は地区大会で敗退して、県大会に行けなかった。とても残念だったが、多くの仲間に囲まれて幸せな日々だった。だが、今日でそんな日々は終わり、受験勉強に入る。少し寂しいけれど、受験のためなら仕方がない。受験でこれからの人生が決まるのだから。
今年度に入って、進路相談など、高校受験に関する事が多くなり、日に日に受験を気にするようになってきた。これから厳しい日々が続くけど、これからのためだ。大好きなサッカーをしたいけど、受験が大事だ。いい高校でもサッカーを続けていくためにも、大事な事だ。
地区大会の帰り道、真夏の太陽が照り付ける中、知也は自転車で走っていた。木々を通り過ぎると、セミの鳴き声が聞こえる。そして、毎日のように強い日差しが照り付けている。早く帰って冷房に当たらないと。そして、アイスを食べたいな。
あと少しで実家だ。そしてその時から、受験が始まる。先生や家族の期待に応えて、頑張らないと。仲間とはすでに帰り道の途中で別れた。孤独な帰り道だ。
知也は実家に帰ってきた。知也の家は近代的な2階建ての家だ。知也の家族は、両親との3人暮らし、兄弟姉妹はいない。だからこそ、知也は期待されている。その事を、知也は知っている。いい高校や大学に行って、賢くなって、両親を楽にしたい。
知也は自転車を物置に置いた。9月まで自転車には乗らないだろう。今日から夏休みだ。受験で家からあまり出られないだろう。遊びたいけど、受験がある。
「ただいまー」
知也は家に帰ってきた。すると、ひんやりしている。冷房が効いているようだ。
「おかえりー、今日までお疲れ様!」
母、麻里子(まりこ)は今日までサッカーを頑張ってきた知也を祝福していた。地方大会では致してしまったけど、チームのために頑張った知也をねぎらっているようだ。
「ありがとう!」
知也は笑みを浮かべた。だけど、知也はあんまり喜んでいない。これからが勝負だ。
「いよいよ高校受験だね!」
「うん!」
それを聞いて、知也の表情も変わった。麻里子も意識している。自分も意識しなければ。
「私立高校に行くためには、頑張らなくっちゃね」
「うん。でも・・・」
知也は少し戸惑った。本当にうまくいくんだろうか? 成績は平凡だ。私立高校に行けと言われているけど、そこに入れるほどの成績じゃないだろう。だけど、言われている限りは頑張らないと。
「私、応援してるからね!」
「ああ・・・。ありがとう。だけど・・・」
突然、麻里子が知也の肩を叩いた。知也は少し気合が入った。
「頑張りなさいよ! 誰もが経験する事なのよ!」
「わかったよ! はぁ・・・」
知也は肩を落として、2階に向かった。サッカー部を引退した寂しさと、受験に対する不安で肩が重い。受験なんてしたことがない。本当にうまくいくんだろうか? もしダメなら、自分はどうなるんだろう。これが自分の運目を決める受験だと思っている。
知也は自分の部屋に戻ってきた。部屋には好きなサッカー選手のポスターが飾ってある。高校でもサッカーをしたいと思っている。プロサッカー選手になるのが夢だ。だけどそのためには、受験を頑張って、名門校に行かなければならない。
知也は私服に着替えると、仰向けになった。地区大会で疲れたのだ。そして、1年生から3年生にかけてのサッカー部での練習の疲れが一気に出たようだ。知也はあっという間に眠りに落ちた。
夢の中で見たのは、進路相談で言われた担任の田川(たがわ)先生の一言だ。あれで自分は運命を決められた。本当は工業高校に行きたかったのに。
「お前、共進学園高校に行けよ! 行かなければ坊主だぞ!」
「は、はい・・・」
知也はびくびくしていた。丸刈りになりたくない。田川先生の期待にこたえなければ。言われたからには、共進学園高校の入試を受けよう。ここは偏差値が高いけど、頑張らなければ。
知也は目を覚ました。目を覚ますと夕方だ。今日から頑張ろうと思ったのに、全くできていない。それだけでも焦ってしまう。引退したみんなは受験勉強を頑張っているんだろうか? ならば、自分も頑張らなければ未来はない。
「うーん、頑張らなくっちゃいけないのかな?」
考えれば考えるほど、知也は眠れなくなってしまう。こんな気持ちで、眠れるんだろうか? 今夜が不安だ。
「本当にできるのかな?」
「知也ー、ごはんよー」
と、1階で母の声がした。もう夕食なんだ。
「はーい!」
知也は1階に向かった。今夜は何だろう。楽しみだな。
知也は1階のダイニングにやって来た。そこには、ハンバーグやウィンナー、照り焼きチキンなどが並んでいる。これほど豪勢な食事を見た事がない。今日でサッカー部を引退したんだ。だから、こんな豪勢な食事何だろうか?
「今日までサッカーを頑張ったんだから、今日は豪勢にしてみたのよ!」
知也は椅子に座った。やはりそうだった。今日まで頑張ったから、母もそれに応えて、頑張ったんだろう。
「ありがとう! いただきまーす!」
知也はハンバーグを食べ始めた。その向かいには母が座っている。母は嬉しそうだ。
「おいしい?」
「うん! ありがとう!」
知也は笑みを浮かべている。とても嬉しそうだ。やはり母の手料理はおいしくて、疲れが一気に吹っ飛ぶ。これが母の愛情だろうか?
「本当に今日までお疲れ様!」
「頑張ったけど、県大会には行けなかったよ」
知也は悔しがっていた。一生懸命頑張ったのに、県大会に行けなかった。みんな悔しがっていた。その悔しさは、誰も同じだ。だけど、その悔しさをばねに、高校でも頑張っていかなければ。
「でも、頑張ったからいいじゃないの?」
「うん。でも、もっと先に行きたかったな・・・」
悔しいけれど、相手が強すぎた。高校ではもっと強くならないと。そして県大会、そして全国大会に行けるまでに強くならないと。
「その夢は高校でね」
「そ、そうだね」
知也は少し笑みを浮かべた。だが、いい高校に入らなければ始まらない。それは自分も、両親も、田川先生もわかっている。
「さて、明日から高校受験、頑張らなくっちゃね!」
「そうだね!」
知也は気持ちを受験に切り替えた。夏休みの勉強も鍵になってくるだろう。みんなが頑張っているのなら、自分も頑張らなければ。
「知也が共進学園に進むのを楽しみにしてるわよ!」
「わかったよ! 頑張るよ!」
麻里子は知也に期待していた。知也なら、必ず偉い人になれる。いい高校に行って、いい大学に行くだろう。そして、家を支えてくれるだろう。
「頑張ってね! 私の大事な息子なんだから」
「うーん・・・。でも・・・」
でも、知也は不安だ。受験なんて、全くわからない。
「不安なのはわかるよ。でも、高校受験頑張ってね!」
「う・・・、うん・・・」
だが、麻里子の声に、知也は胸を打たれた。麻里子のためにも頑張らなければ。
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